AJFの活動

アフリカにおける食料の「流通・販売」「加工・貯蔵」

食料安全保障研究会が課題としている食料の「流通・販売」「加工・貯蔵」について、2007年5月18日の公開セミナー報告者の清野和子さんの論文『西アフリカ地域経済発展の可能性についての研究〜農産物加工・製造業による農村経済向上の意義と方法論〜』から関連する記述を抜き書きしました。

現状

世界食糧計画(WFP)によると、今日、世界には全ての人が健康で生産的な生活を送るために必要な栄養分を摂取するのに十分な食料があるにもかかわらず、食料危機が毎年発生している。つまり、食料を増産するだけでは問題は解決しないと言えるだろう。また、無計画な食料増産は「豊作貧乏」を招く危険性もある。同種の農作物が同時期に市場に集中することで過剰供給が生じると、農産物が値下がりする。その結果、農作物を大量に売っても生産費をまかない、その上で生活を支えるに足りるほどの利益が得られないといったことが生じやすい。(中略)

アフリカにおける食料問題は、単に食料増産によるだけでは解決されない。たとえ国内生産が十分であったとしても、貧困の水準や世帯の購買力を考慮に入れた食料分配システム、また、流通や市場インフラなどのアクセス面で問題がある。(中略)

キャッサバの世界最大の生産国はナイジェリアとブラジルである。キャッサバのでんぷんはタピオカの原料などとして使われており、国内消費の少ないタイが国際貿易市場への主な輸出国になっている。ナイジェリアでは、生産量の7割が国内で消費される一方で、生産量の3割近くが流通過程で損傷し破棄されていると言われている。
(アフリカの食料安全保障を考える 第1章「アフリカの食料安全保障問題」)

西アフリカでは、ガンビア、ギニア、カザマンス(ガンビアを挟んで南に位置するセネガルの一地方)などから、ダカール等の大消費地がありより高い値で売れるセネガル中部以北へ輸送する際、悪路をトラックに山積みで運ぶため、それ自体の重みと果実から発生するエチレンガスやカビなどの菌で、下方に積まれたものは殆ど腐ってしまうのが現状である。その輸送時のロスは3分の1にもなるという。さらにこの輸送ルートには小型フェリーで渡らねばならない川もあり、この川を渡るために大型車は3日待ちなどということもよくある。その間に腐ってしまう量も多く、トラックの調達代を払うと結局赤字になってしまう。
(2007年5月18日公開セミナー『西アフリカ地域経済発展の可能性についての研究〜農産物加工・製造業による農村経済向上の意義と方法論〜』 清野和子さん論文 (第3章第1節 4.西アフリカにおけるマンゴー流通の問題点)


多くの場合民間資本による投資が期待できない中で、本来イニシアチブをとるべき各国政府の農業分野への公共支出が構造調整以後極端に減り、農業技術普及サービスも有料化され(その結果、農民はそれを利用できず)、農業省下に置かれている農産物加工に関わる公社も殆ど機能していないか、活動が非常に限定的である。
(2007年5月18日公開セミナー『西アフリカ地域経済発展の可能性についての研究〜農産物加工・製造業による農村経済向上の意義と方法論〜』 清野和子さん論文 第5章 第1節 西アフリカ諸国における政策の提言1.改善課題と政策内容)

農産物の加工やマーケット・アクセス改善、強化といったテーマは、アフリカ各国の農業省、通産省の官僚、地域経済同盟の農業・食料安全保障担当者の間でも非常に大きな関心事である。国際援助業界でも、特にアメリカODA、欧米のNGOなどは、少ないながらも、この分野での支援プロジェクトを試みている。一方、日本のODAにおいては、アフリカ農業の最重要課題は生産性向上であるという考え方と、「加工・流通、即ち民間セクターの範疇」という2つの考え方が依然根強く、先方政府から要請を受けて公的機関に援助することが大前提のODAにおいては、支援の手が伸びにくい側面もある。また途上国では、品質管理の甘さや販路確保とマーケティングリサーチの弱さから、農村レベルで加工まではできてもそこから先、販路が限られ、忽ち売れなくなるという現象をよく目にする。利益を上げて収入向上につなげるためには様々な仕掛けが必要であり、流通にかかる支援策は複雑で、インフラ整備といったハード面支援以外に、案件形成するのが難しいという現実もある。しかしながら、果物や野菜を生産する貧困層の零細小農民に必要なのは、運搬に必要な橋や道路だけではないことは明白である。加工や運搬方法の改善などのほか、技術や情報がないために不利な立場に置かれやすい、小農の収入向上につなげる方策やしくみが、今、現場では待たれている。
(2007年5月18日公開セミナー『西アフリカ地域経済発展の可能性についての研究〜農産物加工・製造業による農村経済向上の意義と方法論〜』 清野和子さん論文 第1章第2節「なぜ農産物"加工"か」)

アフリカ農業経済の特徴

  1. 構造調整期に農産物輸出を重要な政策の柱としていたにもかかわらず、主要輸出作物による収入を合計しても農業における付加価値生産総額の12%にしかなっていない。つまり、農業生産の88% は非輸出部門であるということ(西アフリカの場合はカカオ・コーヒー・綿花・天然ゴムを例にとるとそれらは農業の付加価値総生産額の約15%にすぎず、農業生産の85%は非輸出部門であることがわかる)
  2. 穀物が可耕地の45%を使って生産され(西アフリカ平均は48.3%)、農業総生産の80%を占めており、アフリカ小農の一般的姿とは、即ち穀物生産農民であるということができる。つまり、一人当たり所得が著しく低いのは、アフリカにおける穀物生産農業のあり方と深い関係があるといえる。
  3. アフリカ農業を農作物の分類から、綿花や落花生のような輸出作物、穀物、それ以外の野菜・果物という園芸作物の3種類に大別してみた場合、伝統的輸出作物や果樹・野菜のような商品作物の土地生産性は世界的な平均レベルにあるが、食糧作物(穀物)の土地生産性と一人当たり食糧生産が、世界平均をはるかに下回っていることがわかっている。南アとジンバブエ以外のアフリカ諸国は食糧輸入大国で(1997年時点)、労働力の60%以上が投入されているにもかかわらず食糧自給は達成できていない。1961年〜2000年の穀物の土地生産性の平均年率をみると、アジアは2.71%、南米は2.13%の割合で上昇しているのに対し、サブサハラアフリカは0.86%にとどまっている。
  4. 面積当たり肥料投入量は、東アジアの17分の1、南アジアの3分の1、灌漑が行われているのは農地の3%、家畜による耕起は西アフリカの半乾燥気候地域では15%にすぎない。
  5. 商品作物、食糧作物ともに供給の価格弾力性が低く、価格上昇に際しても生産量の増加が鈍いと数多くの研究で報告されている。

(2007年5月18日公開セミナー『西アフリカ地域経済発展の可能性についての研究〜農産物加工・製造業による農村経済向上の意義と方法論〜』 清野和子さん論文 第3章第1節 1.アフリカ農業の特徴と経済の因果関係)

課題

地面を覆いつくすほど木から落ちて腐る果物や、運搬手段がないために地元の市場で売りさばききれずに朽ちる野菜を、加工することでより遠くの大消費地へ運べるようになり、より付加価値を付けて収益を上げられるようになるのではないか―。こういった取り組みが貧困農村地帯の経済に、よりスピーディーにインパクトを与える可能性のある、早急に取り組むべき課題と思われるのである。

保存、流通も大きな問題である。キャッサバの世界最大の生産国はナイジェリアとブラジルである。キャッサバのでんぷんはタピオカの原料などとして使われており国内消費の少ないタイが国際貿易市場への主な輸出国になっている。ナイジェリアでは、生産量の7割が国内で消費される一方で、生産量の3割近くが流通過程で損傷し破棄されていると言われている。既に生産されている食料を有効利用できる手段を考える必要があることを覚えておかなければならない。保存が悪いために損傷してしまうとのことならば、保存技術での協力が必要である。市場まで運ぶための車が無い、道が整備されていない、運ぶ距離が遠すぎてその間にだめになってしまうなどの問題であれば、それらの流通の問題を解決することで、生産された食料を無駄なく利用することが可能となる。また、国内消費の余剰分を輸出することで外貨収入源の拡大にもつながるかもしれない。
(2007年5月18日公開セミナー『西アフリカ地域経済発展の可能性についての研究〜農産物加工・製造業による農村経済向上の意義と方法論〜』 清野和子さん論文 第1章 第2節 なぜ農産物"加工"か)

食料安全保障研究会としての提言

アグロインダストリー振興のためには、まず伸びている野菜・果物等の園芸作物について、一次産品輸出は地の利のよい首都(空港)近郊で、農村では野菜・果物加工製造業で、というターゲット(対象地域)を明確にした2本立ての農業政策を明示した上で、公的機関のメインアクターとなる中央省庁下の農産物加工公社を一本化し、ノウハウや予算を集約させるべきであろう。そして公社の技術指導員や地方農業普及員が農村の女性グループや、農民グループに技術指導が行えるような最低限の移動手段の確保、対象グループが十分にプロフェッショナルな商品を製造できるような、指導員・普及員自身の加工技術とマーケティング技術や知識の習得、レベルアップを図り、中長期的視野で民間企業(または外資系企業)を呼び込む下地を作ること、即ち良質の商品生産に必要な労働者の質や能力を一定レベルにひきあげる必要がある。他方ハード面では、工房の設置や加工機材などの初期投資が必要となる。
(2007年5月18日公開セミナー『西アフリカ地域経済発展の可能性についての研究〜農産物加工・製造業による農村経済向上の意義と方法論〜』 清野和子さん論文 第5章 第1 2.政策の実現手法と輸出課題)

マンゴー供給の(果実と言う形以外の)別の形として考えられるのが加工品製造である。運搬時のロス削減、付加価値の増大、地元での製造工房や工場の設置による労働集約型産業、それによる雇用の創出など実現すれば利点は大きいと考えられる。

  1. マンゴー加工品・ケース1 −マンゴー・ピューレ−
  2. 果汁飲料などを主とするトロピカル・フルーツ全体の消費量は特にヨーロッパで、近年急速に伸びている。トロピカル・フルーツ加工産業シェアの85%はアジアが占めている。マンゴー加工品の中では、1999年〜2002年の世界市場における需要が著しく伸びているのが、マンゴー・ピューレである。主要輸出国はインド、タイ、フィリピンなどのアジア諸国とペルー、エクアドル、メキシコ、ブラジルなどの中南米諸国で、世界市場の輸出量は36%増加した。他方で、輸入量は中東、ヨーロッパを中心に583%(輸入額は821%)の伸びを見せている。
    西アフリカではマンゴー・ピューレの加工に取り組んでいないが、この加工品をアグロ・インダストリーの主力として伸ばしていくためには、一国内のマンゴー生産期が3〜6ヶ月とシーズン性があることから、原料確保を担保できるようにすること、そしてアジアや中南米に品質と価格で競争力を持てるようにすることが重要となる。
  3. マンゴー加工品・ケース2 −マンゴー・ヴィネガー−
  4. ブルキナファソは、他の西アフリカ諸国同様マンゴー生産国であり、1998年には果物生産量287,400トンのうち56%をマンゴーが占めるほどであった。が、国外に販路がないため、地元市場はすぐにマンゴーが飽和状態となり、また年間総生産量の約半分は収穫されずに果樹園の地面で朽ちてしまい、そのロスの損失額は輸出業者の買い付け価格換算で800万スイスフラン(約8億円)に上ると言われた。この現状は、同様の状況にあるサヘル地域農民にとって深刻であり、農産物加工による販路拡大を通じた収入向上の試みが急務であることを物語る。そこで、2001年ブルキナファソのマンゴーを使ってヴィネガー製造・販売に着手したのが、COSE(L'association Commerce Solidaire et Equitable)というフェアトレードと途上国の新製品開発を行うヨーロッパの共同組織である。(中略)
    メンバーである6つのNGOがそれぞれ、現地での技術移転(CEAS)、スイスでの輸入(Terrespoir)、ヨーロッパでのマーケティング(Terrespoir, La Kalebasse, Le Balafon, Andines)、組織の財政面でのマネージメント(Geneve Tiers-Monde)という4つを役割分担して事業を行っている。事業開始当初は収穫されたマンゴーは発酵前のマンゴージュースの状態にし、ワインにするところまでをワガドゥグで、それをスイスに輸送して酢製造所でヴィネガーにし、製品にしてヨーロッパで販売していた。(中略)
    この取り組みをトーゴ、ベナン、カメルーンにも広げネットワークの構築を目指している。

(2007年5月18日公開セミナー『西アフリカ地域経済発展の可能性についての研究〜農産物加工・製造業による農村経済向上の意義と方法論〜』 清野和子さん論文 第3章 第2節 西アフリカのマンゴー加工品製造と流通)

加工品を輸出品にする際の販路としては、先に見たマンゴーの輸入実績と加工品輸入の需要の伸びからすると北米とヨーロッパが有力である。(中略)


(しかし)EU市場は農産物や農産加工品の輸入規制が厳しく、農薬使用記録、加工工程に携わった労働者の健康状態記録など輸出に必要な書類が多く、輸出業者がこれらに対応し得る大規模農家から買い付けを行うなど、この段階で識字力が低い小農はハードルが越えられなくなってしまう。この点がアフリカ小農の弱点であるが、これをクリアーし、前述のアメリカやEUとの貿易協定や特恵措置を最大限に利用できないかぎり、永久に一次産品体質から脱却することはできない。そこで最も必要となるのがこれらに対応できる人材の育成とそれに必要な国際協力である。
(2007年5月18日公開セミナー『西アフリカ地域経済発展の可能性についての研究〜農産物加工・製造業による農村経済向上の意義と方法論〜』 清野和子さん論文 第5章 第1 1.改善課題と政策内容)

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