AJFの活動

2004年度第2回AJF食料安全保障研究会セミナー報告

日 時:2004年7月25日(日)13:30〜16:30

会 場:音羽生涯学習館(東京都)

講 師:香月敏孝氏(農林水産省 農林水産政策研究所 地域振興政策部長)

題 目:アフリカ食料問題の構図

参加者:研究者、NGO、コンサルタント、学生等15名

内 容:講師の方から説明を受け、その後、質疑応答、議論へと進んだ。

【講師からの説明】

以下のレジュメに沿って、説明がなされた。配布資料は、他に1点(香月敏孝氏著「アフリカ食糧問題の構図」(全19頁 『世界食糧需給プロジェクト研究資料第4号 資源制約下における世界主要国の農業問題』農林水産政策研究所 2004年 所収)であった。

レジュメ:「アフリカ食料問題の構図」

2004.7.25

アフリカ日本協議会セミナー「アフリカ食糧問題の構図」

農林水産政策研究所
香月敏孝

I.食糧問題の視点

II.人口問題

 経済成長とは無関係に増加、アフリカ人口は約8億人(世界の約13%)。
 特徴

  1. 他の地域に比べて突出した高い増加率
      1995〜2000年の人口増加率2.6%(アジア1.3%倍)
      「後発的発展」の現象形態の1つ
  2. 都市部への集中が顕著(都市人口割合:1950年・15% → 95年・34%)

 問題点−食糧問題との関連−

  1. 人口増加に見合った食糧生産の立ち後れ
  2. 経済成長が無い下で人口増加
  3. 交通インフラの未整備等による都市部への供給不足

III.食糧・農業生産

  1. 食糧・農業生産の実態
       低い穀物の土地生産性1997年の1ha当たり生産量1,042kg(アジアの34%)
  2. 農業の自然的制限要因
    1. 気象不順
    2. 劣悪土壌
    3. 乾燥(水不足)
    4. 可耕地不足
  3. アフリカの農耕方式
       焼畑農耕と牧畜 両者の有機的結合なし

W.食糧流通問題一不効率な流通基盤一

  1. タンザニアにおけるメイズ流通
      公的流通から自由化へ
  2. コンゴにおけるキャッサバ流通
      流通マージンの高さ:物的流通の不効率性

X.経済開発と農業

  1. 開発戦略における農業の位置づけ
       輸入代替工業化政策の失敗 → 農業生産を柱とした経済開発にシフト
       しかし、
    1. 単なる経済自由化だけでは向上しない農業生産
    2. 意識的な農業発展へ向けての開発戦略が重要
  2. 農業発展の課題
    1. 農法変革をめぐって
            新たな農法が未確立、方向としては
      1. アレー・クロッピング
      2. 水田稲作
    2. 土地保有制度をめぐって
            ともすれば混乱を招く土地保有制度改革の改革との整合性

VI.おわりに

【質疑応答】(Q:質問 A:回答 C:コメント)

[アフリカ各国政府と援助]

Q.現状認識はよくわかった。アフリカ各国政府の政策が見えにくいが、その点、どうなのか。

A.見えてこないですよね。市場経済化の中で、新しい状況が生まれてきている。政府が政策を絞って整然と行っていないという状況だ。


Q.日本の農業政策は?

A.ようやく今になって「担い手農業」という形で始まったといえる。


Q.ザンビアは?

A.農業は民間部門と見なされているので、これでいくのだというやり方にはなかなかならないのではないか?

C.ザンビアでは、民営化後、花やカット野菜といった輸出農業に力を入れている。ムワナワサ大統領に代わった時、協同組合に力を入れようとしているのではないか。タンザニアのASIP(Agricultural System Investment Programme:農業システム投資プログラム)は、どうなのか?

C.ASIPはわからないが、ドナー協調の流れで、ASDS(Agriculture Sector Development Strategy:農業セクター開発戦略)やASDP(Agriculture Sector Development Programme:農業セクター開発プログラム)を作らせるための会議費を日本が持ったりしている。この計画を読むと、あまり中身が無い。協調しているのは、地方分権化を推進すること。ソコイネ大学の先生たちは、近代化農業を強調したがっていたが、ドナー側は、貧農をターゲットにしたアプローチを強調した。また、日本は「水利」を強調しているが、他のコンポーネントと一緒にやることになっている。つまり、普及とインフラ整備を同時進行的に行うべきという考えだ。

C.政府セクターのスリム化を図るため、「普及」の部分を切って進めたSAP(構造調整計画)が失敗し、今度は逆の動きを始めた。ドナーがアフリカを振りまわしているだけではないか。

C.その通り。

C.市場経済化の中で、アフリカ各国政府は、内外に方針を出している。昨年のTICADに来日した各国政府の代表は、何点か語ってもいる。例えばウガンダのムセベニ大統領は、先進国の農業補助金に対し、厳しく批判していた。


[ケーススタディ:キリマンジャロ]

Q.FAOでは、ターゲットをどう絞り込んだ取り組みをしていますか。

A.タンザニアの事例を挙げる。JICAと共同で、食料増産のプロジェクト(稲作)を行っている。いずれもそれ程大きなものではないが、なるべく現地で既にあるものを使いながら、進めていこうと考えている。足踏みポンプなども他のNGOから提案をもらい、導入しているし、農民参加による「水管理」もプロジェクトのコンポーネントに含んでいる。


Q.タンザニアでは、JICAがキリマンジャロ州で、稲作プロジェクトを実施しているが、このプロジェクトは成功したのだろうか?

A.プロジェクトエリア外にまで技術移転が広がったという点では成功したと言えるのではないか。エリアの外と内では、水利を巡る争いがあったが、そこまでして外の農民が稲作を導入したいということは、このプロジェクトに価値を見出したということにならないだろうか。

C.必ずしもそうではないのではないか。元々、このプロジェクトは稲作と畑作の2本立てだった。プロジェクトエリア内で、田んぼと同じくらいの広さの耕地が畑作のために考えられていた。ところが、そもそも水が足りない。プロジェクトサイト内の田んぼだけでも水が足りない。当然、下流のサイトでは深刻な水不足になり、水利権を巡って警官隊まで出る事態になった。減水深等、技術的な問題はあるが、それ以上に水利組合などのソフト部分に対するケアが足りなかったのではないか。

C.プロジェクトが目的としていた食料増産は可能となった。土地の痩せたアフリカの厳しい状況を考えれば成功した事例ではないか。

C.サイト内の成功事例が上流の農家に影響を与え、彼らが見よう見まねで稲作を始め、これがそこそこの収量を上げた。そうなると、サイト内の水不足に拍車がかかり、水利を巡る争いはさらに進んでしまった。こういう事態ではないのか。


[早期警告(Early Warning)・食料援助]

Q.FAOは、Early Warning(早期警告)を実施している。ケニアでは、北西部の干ばつに 対して行われた。どういう仕組みなのか。

A.ミッションが定期的に行って予測をする。農作物だけでなく、家畜についても予測を たてる。具体的な内容は、FAOのWebsite(http://www.fao.org./)に載っている。


Q.食料援助などは?

A.むしろWFPが行っている。WFPは、毎年、各国の需給を見て、全体枠を作る。それに基づいて、その年の食料援助全体の方針・方策を決めていく。もちろん、局地的に問題があれば、その都度対処する。

C.確か、南部アフリカ、東部アフリカの食料危機に際して、食料援助を要請しなかったのは、ザンビアだけだった。あとは、食料輸出国のウガンダも食料援助を要請していた。

C.ただ、ウガンダも、北部は食料不足だった。

C.食料援助を被援助国の側から見た場合、多分に政治的な動きではないかと思われる。ケニア大統領選の年は豊作だったが、選挙の直前に援助が届いた。こういう事例もある。

C.ケニアの場合、降水の不安定さが不作の要因となっている。今は大雨季よりも少雨季の方が収穫がよいという現実もある。


[アフリカの主食と統計]

Q.土地生産性に関し、「穀物生産」のデータが出た。まず、統計上の数字がどこまで正確かが問題だ。±10%を見て欲しい。それに、食料というと、すぐに穀類ということになっているが、果たしてそれでよいのか。事実として、ウガンダなどは、18.6%が穀類、つまりそれ以外の主食を含む食料が多く食べられている。そのことを示すデータもあるのに、穀物の自給だけを見ようとするのは、実状を誤認するのではないか。

A.ただ、穀類以外のものはカロリーが低い。米とイモでは、同重量に対するカロリー比が5:1にもなる。重量比でみるのは、正確でない。

C.確かに、米とヤムを比べた場合、カロリーの差は大きいが、キャッサバ等は違う。また、穀類でも米・麦・トウモロコシ以外は、カロリーが決して高くない。一般化の前に、個別の事情を見る必要がある。

C.手許にあるFAOのデータは、重量比ではなくカロリー比で出されたものだ。


[西アフリカの稲作]

Q.西アフリカの稲作の可能性は?

A.西アフリカで、WFPが Food for Work を行っている。コートジボワールで、潅漑稲作を始めたのは成功だった。ネリカ米(NERICA:New Rice for Africa(アフリカ稲とアジア稲を交雑した「品種」))が、アフリカの希望となっている。現在は陸稲品種だが、水稲があと2,3年のうちに開発されれば画期的なことが起きる。水稲に適した谷地田は多くあり、潅漑稲作を進めていけば食料増産につながるだろう。

Q.なぜ谷地田で拡がらないのか。

A.「よくわからない」という記述が見られる。

C.やはり病気だろう。水田は、畑に比べれば、人間の罹る病気が格段に多い。

C.セネガルでは潅漑水田ができている。ところが、タイから輸入されるコメの方が安い。生産というより流通を含めた商業化の問題なのかなと思う。

C.水稲品種の開発があと2,3年で可能になるという話もでたが、そう思っている人は、少なくとも育種の専門家にはいないと思う。品種の特定には相当時間がかかると聞く。

C.水稲より陸稲の方がむしろよいのではないか。土壌劣化の話もあったが、陸稲栽培適地の方がずっと多いのがアフリカの現実だ。収量こそ大きく増えないが、耕地の広さでカバーできないだろうか。

C.日本は、陸稲技術も相当進んでいる。連作障害を緩和するノウハウもある。水稲化を急ぐより、現地に合うもので始めるのがよいのでは。

以上

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