食料安全保障研究会公開セミナー報告
アフリカの食料:ヤムイモ研究の現在−Orphan Crop研究に取り組む人たち−
3月18日(水)夜、青山の環境パートナーシップオフィスEPO会議室で、公開セミナーを開催しました。
志和地さんの講演は、図表、写真をわかりやすく使った興味深いものでした。
以下、講演・質疑の中で印象に残った点を紹介します。講演資料が必要な方は、AJF事務局へ連絡下さい。
【講演】
- 食料生産を品目ごとに比較すると、世界で最も大量に作られているのはトウモロコシ、次いでイネ、コムギの順
- トウモロコシの主要生産国は米国と中国で、主としてコーン油、バイオ燃料原料、飼料として消費されている
- 熱帯、亜熱帯で重要なのはイネ
- 前国連事務総長のコフィ・アナンさんが代表のアフリカ緑の革命同盟(The Association for Green Revolution in Africa;AGRA)に、ゲイツ財団ほかが資金を提供して、アフリカでミレニアム・ビレッジ作りが進められている。この構想が動き出した頃から、在来作物への注目が高まり、Orphan Cropsという用語が使われるようになった
- Orphan Cropsは、生産・消費が特定地域に集中しているために、国際的な食料政策の対象にされてこなかった作物のことで、アフリカに生産が集中しているものとしてはヤムイモ、ササゲなどがある
- 現時点では、ゲイツ財団の支援を受けてAGRAが取り組んでいるOrphan Crops研究の対象作物はモロコシ、キャッサバ、ササゲ等
- アフリカのOrphan Cropsには他にトウジンビエ、テフ、フォニオ、バンバラマメなどがある
- 熱帯圏アフリカでは病虫害のためにあまり生産されていないサツマイモもOrphan Cropsの一つで、病虫害対策が進めば重要な作物になるだろう
- アフリカのOrphan Cropsは、温帯圏に生まれ育った先進国の研究者の視野に入ってこなかったし、研究資金も投じられてこなかった
- 日本では、ヤムイモに連なるナガイモ、イチヨイモなどの栽培、増産研究がおこなわれてきたし、ヤマノイモ、サトイモなどイモ類の研究の蓄積もあって、日本の研究者、研究機関はヤムイモ研究に寄与できる
- 昨年末、チューリヒ大学でヤムイモ研究を行っている研究者の呼びかけで、世界のヤムイモ研究者の大半が参加するワークショップが開かれた
- 参加したのは13人 ヤムイモ研究者が少ないことがよくわかった
- スイス、フランス、オーストラリアの研究者は栽培モデルを、ナイジェリアの熱帯農学研究所では品種改良を、日本の研究所は生産拡大につながる研究を目指していることがわかった
- 次のワークショップを日本で開くことになっている
- 東京農大の研究チームは、ヤムイモの茎から種芋を作る技術を開発し、また、年間を通して種芋を作ることを可能にした
- 昨年、農水省の報告書に、ヤムイモなど在来作物の研究も必要という趣旨の一文が入ったおかげで、農水省の研究所から一緒にやろうという声がかかるようになった
【質疑】
Q:ブルキナファソにいた。ブルキナファソでもコメの消費が伸びているが、競合しないのか?
A:西アフリカ諸国ではコメの消費が伸びている。これまでのところ、コメもヤムイモも市場に出回ると出回った分だけ売れているので、競合していないと言っていい。キャッサバは、市場に製品がだぶついてしまうことがある。白米が伸びると、ビタミン不足の問題が発生する。イモ類は、ビタミンやミネラルをたくさん含んでいるので、イモ類の生産増は地域の栄養改善にも寄与するだろう。
Q:ヤムイモ生産は誰にでもできるのか?
A:降水量や土壌の問題がある。降水量が年間1,200ミリ以上ないと生産できない。特定の灌木が生えているような土地でも生産できない。
Q:イモ類の商業生産が広がっているとのことだが、地域にはどういった影響を及ぼしているのか?
A:働く機会、収入機会が増えたと受け止められているようだ。
Q:降水量が少ない地域へ向かってヤムイモ生産が広がっているのはどうしてか?
A:ヤムイモを食べる人たちが移動しているのが大きい。移り住んだ土地でヤムイモを植えている。乾燥地に強いヤムイモ、栽培期間が短いヤムイモが選択されて栽培されるようになっているようだ。
Q:ヤムイモは輸送過程でかなり傷むと聞いたが、どうか?
A:ガーナあるいはナイジェリアの国内生産量と国内消費量を比較して損耗率が30%近いとの推計が出されたことがある。生産地で出荷されたヤムイモを追跡すると、国境を越えてマリやブルキナファソ、ニジェールなどへも行っている。こうした域内消費量を考慮すると、そんなには傷まないのではないか。
次回は、ネリカ米をテーマに行う予定です。