AJFの活動

食料安全保障研究会公開講座・学習会の記録

アフリカのどういった人々がどのような状況で食料に困っているのかを理解し、食料問題に対するアフリカの人々の取組みや活動に対し、日本にいる私たちがどのように支援・協力できるのかを考え、社会に提言していくための研究会です。

2001年8月から食料安全保障研究会が行っている勉強会・公開講座の記録です。

講座案内 報告
  第1回勉強会報告
第2回公開講座案内 第2回公開講座報告
第3回公開講座案内 第3回公開講座報告
第4回公開講座案内 第4回公開講座報告
第5回公開講座案内 第5回公開講座報告
第6回公開講座案内 第6回公開講座報告
第7回公開講座案内 第7回公開講座報告

会報「アフリカNow」第61号に、第1回勉強会から第6回公開講座までの記録を収録しています。コピーを希望される方はAJF事務局へメールを下さい

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第1回勉強会報告

去る8月4日(土)、食料安全保障の勉強会を東京都文京区の千石生涯学習館で行いました。参加者10名の自己紹介の後、講師の半澤先生から話を伺い、参加者による質疑応答とディスカッションを行うという形で進めました。今回は、TICAD3に向けた具体的な段取りを決める以前に、まずブレインストーミングで各参加者の頭を整理することから始めました。

半澤先生からの話は、「食料安全保障」という概念をめぐる議論の紹介とアフリカの「食料安全保障」を考えるに当たってポイントとなる部分の指摘が中心でした。アフリカ農業の持つ「脆弱性」とそれを補う様々なレベルで行われている工夫について、主に生産・供給の面から話されました。

その後、行われた質疑応答・ディスカッションで話題となったポイントを以下に示します。

1)押さえておくべきポイント

  • 「安全保障」は国から始まったが、個人や村レベルの安全保障とは異なる。
  • 主食という概念を決して固定して考える必要は無い。
  • 生物学的弱者(子ども等)への食料分配は重要な観点だ。
  • 何をどう食べるか、という点が重要だ。
  • アフリカの「食」を取り上げる時、「食糧」よりも「食料」が的確だ。
  • 生業形態(農業、牧畜、採集狩猟、漁業等)の違いを考慮すべき。
  • 生産手段を持たない人々(都市住民・農業労働者)の視点も非常に重要。
  • 農民は様々な手段で情報にアクセスしている。
  • 流通(インフラ・市場・仲買人)の観点は必要だ。
  • 外部の大きな動き(構造調整/グローバリゼーション/援助等)をしっかり見る必要がある。

2)議論いくつか

・伝統

  • 「伝統的な食形態に従う限り、栄養状態は悪くない。」
  • 「必ずしもそうではない。」
  • 「外からの変化に対する従来の対処が的確でなければ、食料事情は悪化する。」

・民営化の流れ

  • 「民営化できるところは民営化するというのが世界の流れである。」
  • 「利益の上がらないところにもサービスを提供する必要がある。それは民営化では達成できないのではないか。」

・NGOの役割

  • 「プロジェクトのレベルでは、NGOでなければ成功しなかった例は無い」
  • 「ミクロのレベルのプロジェクトは、より良いものを目指す限り、ODAもNGOも似てくる。」
  • 「NGOは、公(おおやけ)に関わることを行う。国家や企業とはまた異なる視点を持つ」

3)いくつかの指摘

  • 構造調整の結果、市場に対するアクセスが開かれたという面もある。
  • 家庭内の食料保障を考えた場合、所得というのは重要な要素だ。
  • 貧富の差が拡がったのは確かに言える。
  • アフリカの恵まれた人々が貧困層にどう対していけるか、という視点も重要。
  • 環境(自然・社会)の変化にどう対処していけるのか
  • こういった問題を見る時に、自分のバックグラウンドにしがみつく傾向がある。

複合的な観点はどうしても必要。

以上、既に何度か指摘されてきた点も多くありました。今回、用意した資料は、AJFがこれまで行ってきた活動の報告書と会報43号(TICAD2の特集号。事務所にはもう残部がありません。)のコピー他、6点になります。この勉強会は、TICAD3を意識した取り組みではありますが、まずは頭の整理ということで進めたので、これまでAJFの活動に関わってきた人にとっては、ある種の「復習」をしているような気がしたかもしれません。

最後に、今後の動きについてお知らせいたします。

今回のような、公開を原則とした勉強会を年度内に後4回は行います。これまでAJFが行ってきた取り組みに連続する形で、テーマを設定します。アフリカの人々の生活に大きな影響を与えているマクロの動きと、それらに対して具体的な単位(国家、村、世帯等)で行われている様々な取り組みの両方を追いかけます。

マクロの動きとしては、以下の3点を考えています。

  • 2KR(食糧増産援助)
  • PRSP(貧困削減ペーパー)
  • 食料の保障と知的所有権

このうち、「知的所有権」の問題は、企画委員会として、もう一方の「感染症」勉強会も含んで取り上げたいテーマのひとつです。最終的には、冊子(日本語)にまとめます。

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第2回公開講座案内

日時:2001年11月28日(水)18時30分−21時
会場:富士見区民館(TEL 03-3263-3841)
   東京都千代田区富士見1-6-7
   JR・地下鉄・都バス飯田橋駅から徒歩5分
講師:楠田一千代さん(AJF会員)
題目:「食料の保障:三つの不安−セネガルの合同農村調査から見えてきたこと」
資料代:500円

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第2回公開講座報告

日時:2001年11月28日(水)18時30分−21時
会場:富士見区民館(東京)
講師:楠田一千代さん(AJF会員)
題目:「食料の保障:三つの不安−セネガルの合同農村調査から見えてきたこと」
出席者:AJF会員を中心に10名。
背景:同研究会は、11月21日に打ち合わせを行った。その場で、AJFがアフリカのNGOと行った合同農村調査について、今一度「復習」する必要があるという点が確認された。それを受け、今回は、1997年の「食と環境」に関する調査(セネガルのENDA-Grafとの合同調査)に参加した楠田一千代さん(AJF会員)を講師に迎え、話を伺うことから始まった。

内容

河内が司会を担当した。はじめに、以下の内容に関し、講師の方から解説を頂き、その後、質疑応答/討議へと進んだ。

  1. Enda-Graf/AJFの共同調査概要
  2. セネガル概況:地図、位置、機構、降水量、地形、農業関連データ
  3. 外的要因
  4. 二次的影響
  5. 村人(農民)の持つ不安の多面性(生産者/消費者/家長)

[講師による解説]

1)Enda-Graf/AJFの共同調査概要

・背景:ここは、『「食と環境」報告書』(1998)より抜粋

「アフリカ日本協議会は過去の活動を通じて、気候変動の大きいサヘル地帯などの半乾燥地域を中心として食料供給が不安定であり、その課題の克服のためには、農村においては農業を取り巻く環境の保全が重要であり、それは地域住民の自主性に基づいた活動として、かつ包括的なアプローチによって取り組まなければならないという観点を持つに至った。実態調査では、この観点に基づき、地域レベルにおける食料需給の実態(食料安全保障)および環境劣化と農業生産の実状、食料確保および環境回復のための地域住民の活動、を調べることとした。実態調査は、エティオピアとセネガルにおいてアフリカに本協議会が現地NGOと協力して実施した。調査終了後、現地のNGOスタッフを日本に招聘して『食と環境』をテーマとしたセミナーを開催し実態調査の報告を行った。これと平行して、農業資源環境と食料生産に関する勉強会を開き、当該テーマに関する知見を深めた。」

・対象国:セネガル
・現地のNGO:ENDA-Graf
・活動:
 −1996年8月−10月現地調査実施
 −日本国内にて、11月「食と環境」シンポジウム開催、地方での報告会・農家訪問の実施
 −報告書作成.同発行(1998年1月)

2)セネガル国概況

・地図、位置、気候、降水量、地形等。
・農業関連データ:
  −主要作物(種類とそれぞれの割合、輸入額、輸出額)→ 落花生栽培への集中
  −農業従事人口 他
  −食料の輸入

3)外的要因:農村の食料安全保障に関し、外部から影響を与えるもの

  1. 政府の介入(買い上げ公社、生産物価格の決定)
  2. 外部者(NGO、援助機関など)の介入
  3. 政府の作ったシステム内での落花生栽培(改良種、化学肥料使用必須)
  4. 国際市場による生産物価格決定
  5. 農業政策の変化(落花生モノカルチャー → 自給農業奨励、工業化促進による都市部への農民の移動)

4)二次的影響

上記3)の外的要因の結果、引き起こされたと考えられる影響として、以下の6点が指摘された。

  1. 環境破壊(有用植物の消失→健康面の不安増大、保健医療に関わる金銭的負担拡大、保水力低下、栽培可能作物の限定化、等々)
  2. 貧困深刻化
  3. 地力低下→より広い土地耕作の必要性→肉体的負担増大→健康を害することが増える→薬売り(輸入もの)がはやる→文字が読めないことがネックになり高価な役立たずの薬を売りつけられる→家計への負担増大
  4. 地力低下→より広い土地耕作の必要性→人口増加と相まっての土地不足→若者の都市への移動
  5. 地力低下→より広い土地耕作の必要性→人口増加と相まっての土地不足→生産量の不足→現金収入の減少→購入できる穀物量の減少→不十分な食料しか確保できない
  6. モノカルチャー奨励→牧畜民の定住化→生来の生業でないための不適応→家畜売却→財産の消失→貧困状態の深刻化

5)村人(農民)の持つ不安の多面性

今回の調査を受けた村人(世帯主)は、生産者/消費者/世帯主という三つの立場を持つ。それぞれの立場から感じる不安について、以下のような指摘・報告がなされた。

  1. 生産者として:肥料が高い、クレジットで買わされる(収穫後に要返済)、生産物の価格決定権がない、買い取り価格の低迷(外部への依存度の高さ)、土地の不足、地力の低下(環境劣化)、気候変動(降雨時期が不安定、雨量不足・地域的偏り)、代替作物の一様性(スイカばかり)、老朽化した農機具、現金化の為に手放した役畜たち(馬、牛など)、改良品種として売却するための賄賂使用
  2. 消費者として:現金収入が不足し、主食作物が十分確保できない、自給生産の難しさ(土地不足、天水農業)、収穫穀物の管理の難しさ(現金化の手段であるがゆえに、収穫直後に得らなければならない→商人に買い叩かれ、8−9月の端境期に高く売りつけられる)
  3. 世帯主として:生活のための現金確保の必要性とその難しさ、収穫穀物の貯蔵管理の難しさ(現金化の手段、家族メンバーによる無計画使用、虫害防止、盗難対策など)、家族内の労働力の管理(現金不足の場合には、出稼ぎのために町に送る)、教育・保健医療にお金を回せない

6)まとめ

内戦もなく治安の安定しているセネガルであるが、調査地域の村では、一様に環境の劣化、および貧困の深刻化が指摘された。それらの多くは外的要因として指摘される。多投入を続けない限り、あるいは続けても生産性の上がらない土地の状況は、多投入に伴うリスクと共に深刻な状況にある。農村における(食料)安全保障を考えるにあたっては、これらを充分に考慮する必要がある。

[質疑応答]

Q.輸入品の31%が食料というが、なぜか。

A.大部分は都市部の主食、すなわちコメである。落花生栽培のため、主食(コメ、雑穀等)に土地を割くことができない。また政府もそれを奨励してきた。
 

Q.対象となった地域では、もう土地が無い。村レベルを越えた争いが始まっているのか。

A.そこまではいかない。
 

Q.化学肥料は効果があったのか。

A.収量自体は上がった。ただ、改良品種だから効果があったと言える。長期的にはどうなのかわからない。
 

Q.化学肥料の価格はどこが決まるのか。

A.政府が価格を決める。
 

Q.政府の方針に変更があったというが、どう変わったのか。

A.1994年に、新農業政策(Responsibilization)が打ち出され、80年代の落花生栽培中心から、多様化推進に向けた動きになった。
 

Q.アグロフォレストリーについて、もう少し具体的に。

A.(写真を見せて)アカシアアルビダという木が畑にある。現地の人々はそれを切らない。その根元にミレットが栽培されている。農作物と樹木が排他的にならず、共生している。村の人々はこういう状態を作り出してきた。
 

Q.配布資料「食料安全保障の概念からヒューマンセキュリティの概念へ」について説明が欲しい。

A.Endaが行ったワークショップの際、参加者で作り上げたものである。「ヒューマンセキュリティ」とあるが、フランス語では「存在のためのセキュリティ」となり、それらは以下の8つの要素から構成されているということである。
 −象徴的安全保障
 −食料安全保障
 −アイデンティティーの安全保障
 −資源の安全保障
 −社会関係の安全保障
 −政治的安全保障
 −貨幣の安全保障
 −物理的安全保障と精神・身体の安全

[コメント]

  1. 降水量/年のデータが必要ではないか。他の地域あるいは他の時期との比較が可能になれば、より立体的な考察につながる。
  2. これまでになかったということから考えるなら、堆肥は新しい手法だが、化学肥料に比べた場合、雑草が増えてしまう。この部分と土地の劣化の兼ね合いは重要だ。
  3. 化学肥料は、たとえ効果があったとしても、導入に伴うリスクに配慮するべきだ。

[参考資料]

  • 『「食と環境」セミナー資料集』(AJF編.1997年.無料)
  • 『「食と環境」報告書』(AJF編.1998年.800円)

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第3回公開講座案内

日時:12月25日(火)18時30分−21時
会場:富士見区民館(TEL 03-3263-3841)2F洋室B
   東京都千代田区富士見1-6-7
   JR・地下鉄・都バス飯田橋駅から徒歩5分
講師:田中清文さん(国際開発センター.AJF会員)
題目:食料安全保障をめぐる相反するアプローチ−モザンビークの例を中心に」
資料代:500円
内容(講師からひと言):
JICAの開発調査で、モザンビーク南部の村で住民参加型の村落開発に取り組んでおります。この村でも食料安全保障は大きな課題で、パイロット事業として有機農業・自然農業の技術を活用した、外部からの資源(農薬、化学肥料)をなるべく投入せず、お金のかからない低リスク型の有畜複合農業を住民(小農)と一緒に実験中です。しかし、モザンビーク国政府は食料安全保障のためには多投入型の近代農業(企業的農業、灌漑農業)による食糧増産が必要だと考えており、FAOや日本政府に援助の要請をしています。同じ「食料安全保障」という言葉を使いながら、まったく正反対のアプローチが生まれてくるのはなぜかを、皆様と一緒に考えることができればと思います。

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第3回公開講座報告

日時:2001年12月25日(火)18時40分−21時
会場:富士見区民館(東京)
講師:田中清文さん(国際開発センター.AJF会員)
題目:食料安全保障をめぐる相反するアプローチ---モザンビークの例を中心に
出席者:開発コンサルタント、NGO、JICA、研究者等、「開発」の業務に従事している方を中心に14名。

内容

河内が司会を担当した。以下のプログラムで進められた。

講師の方から、モザンビークにおける「除隊兵士再定住地域村落開発計画調査」事業に関する報告がなされた。続いて、FAOの技術協力局が担当している  Special Program for Food Security(SPFS:食料安全保障特別事業)が紹介された。FAOの農業局が実施しているIPPMアプローチにも少し触れ、同じ「食料安全保障」という言葉を使いながら、正反対のアプローチが生まれてくる状況等について確認した。JICAとFAOの「連携の模索」についても話が及んだが、それらは、後の質疑応答/討議において話が展開された。

  1. プロジェクト概要
  2. FAOのSPFS

以下、順を追って述べる。

1.プロジェクト概要

1)期間/委託/カウンターパート

実施期間:2000年7月から2002年8月まで(約2年間)
委託元:国際協力事業団(JICA)農業開発調査部
委託先:(財)国際開発センター・三祐コンサルタンツの共同企業体
カウンターパート:モザンビーク国政府 労働省 雇用促進局

2)目的

モザンビークの農村において、地域住民の「自立的な」発展を促進するためにドナー・政府に何ができるかを模索し、南部マプト州マニサ郡ムングイネ村とマルアナ村でのパイロット事業の実施を通して実験し、その成果を他地域への普及に適した形(「自立的農村開発」のモデル)にまとめる。

3)本調査のアプローチ:モザンビークにおける「自立的農村開発」のモデル案

・住民参加型農村調査の実施
−住民自身による「既存資源の豊かさ」への気づき
−「地域で利用可能な資源」に基づき、自分達で維持管理できる「適正」技術 を使った村落開発プロジェクトの立案
・短期の農村開発の目標:村・住民レベルの「食料保障」(food security)
−換金作物(バナナ、サトウキビ、カシューナッツ)による所得向上より安定 性を重視
−多様な土地の利用(湿地の低地部だけではなく、半乾燥地の高地部でも適地 適作)
−他品種の作物(メイズ、キャッサバ、豆類、野菜類)
−果樹(マンゴー、パパイヤ、パイナップル等)を増やす
−家畜(牛、山羊、豚、鶏、アヒル、ウサギ等)を増やす
−システム全体の「多様化」の向上=システム全体の「安定化」の向上(リス ク最小化)
・村落開発の担い手として「住民組織」の強化(運営能力、財務管理能力、リーダーシップ等)をはかる
−住民組織の能力強化のためには、「研修と実施が一体化」した協力が必要。
−パイロット・プロジェクト実施の経験を通して、住民組織の問題対応能力を 養う
・パイロット・プロジェクトでは、住民が自己負担(コスト・シェアリング)してでもやりたい事業を支援する。
・「スタディ・ツアー」等を通して、モザンビークの農民同士が横につながり合い、お互いに学びあい刺激を与えあう関係を構築する(水平的な農民のネットワークの形成)
・関連政府機関、ドナー、NGOと自立的農村開発に関する「経験・ノウハウの交換・共有化」を図る
・結論としては、外部から資金を投入して大規模な農村開発プロジェクト(インフラ開発、大木簿感慨開発、高価な農業機械の供与等)を実施するのではなく、適正技術に基づく小規模な開発プロジェクトを住民主導型で実施していくという経験を積み重ねていくことによって、地域住民の能力向上を図りながら、ゆっくりと時間をかけて(最低でも3年程度の継続的な支援が必要)、自立的な農村開発を実現するための「社会資本」を蓄積していく

2.FAOの Special Program for Food Security(SPFS:食料安全保障特=別事業)

1)背景

1996年11月の世界食料サミットにおいてFAOのDirector Generalが提案。

1997年よりドナーからの資金協力を得ながら、低所得・食料不足国と分類された世界82ヶ国中の64ヶ国で実施中。FAOの技術協力局(TC)が担当。

2)目的

米・麦・芋類の主要作物の増産による食糧安全保障の達成を目的として、

  1. 水管理コンポーネント:小規模灌漑・排水施設の建設
  2. 農業集約化コンポーネント:高収量品種と高度肥培管理の導入による生産性の向上
  3. 生産多様化コンポーネント:家畜の導入による生産の多様化等を行う小規模プロジェクトを実施。

3)実施

実施は2段階で行われる。第1フェイズでは、特定の地域を対象に生産性向上と農村所得向上を目的とした実証調査を行い、その実現に必要な技術と方法を把握する。第2フェイズではマクロ的な国家方針も十分考慮して、第1フェイズで得られた結果をより大規模に実施する。

4)モデル事業

SPFSの1号案件は、「南南協力」によりヴェトナムの日本政府との関係:専門家(農家も含む)100人が、セネガルの貧困地域の村落に住み込んで稲作指導を行ったもの。FAOは専門家の航空券と滞在費のみ負担し、技術協力はヴェトナムの農民からセネガルの住民組織に対して直接行われた。この方式は非常に成果を上げ、世界のSPFSのモデル的な事業となった。

5)モザンビークにおけるプロジェクト案

  • −対象地域:南部(マプト州)、中部(マニカ州、ソファラ州)
  • −1998年5月からメイズ、豆類、野菜類、キャッサバを対象に、デモンストレーションを実施中(212人の農民が参加、114haで328のデモンストレーション)。→2000年の洪水で多大な被害。
  1. 水管理コンポーネント:既存メイズ灌漑地区の水管理の向上、湿地帯の開発、灌漑ポンプ
  2. 農業集約化コンポーネント:高収量品種・耐乾性品種の導入、肥料、吸江の導入、病虫害管理、収穫後の保存法改善、開店資金の設立
  3. 生産多様化コンポーネント:豚・鶏の疾病予防、灌漑地区での養魚

3.相反するアプローチ:JICA/SPFSとIPPM

Q&Aを参照。

Q.モザンビークの村の状況について、もう少し詳しく知りたい。

A.内戦の影響は大きい。家畜が少ないのは内戦時代に軍隊が村々で調達した結果であるし、果樹の周りに近づけないのも周りに埋められている地雷のせいである。もともと豊かな土地であったと思われ、2000年の洪水の前、食料は足りていたようだ。国全体は、大きく南部、中部、北部と分けられ、対象となった地域は南部の村である。大規模農業中心の中部と異なり、農業の担い手は小農である。同時に、対象地域は出稼ぎも多い(行き先は主に南アフリカ)。
 

Q.対象となった村はどのようにしてできたのか。元兵士が集まっているのか。

A.そうではない。「除隊兵士再定住地域」というのは地域名を指す。様々な新規入植者が住んでいる。その入植者は、モザンビーク政府が住民の組織化をしたところに土地を与えることにしたため、小農がグループを作り、登録することになった(登録料が必要)。
 

Q.パイロット地区は誰が選定したのか

A.プロジェクトの機関であるCommitteeが決めた。その際、Criteriaを作った。技術が適正か、組織は大丈夫か、等々。
 

Q.プロジェクトのプロポーザルを出す単位として住民組織を考えたというが、モザンビークでそういった組織は多いのか。

A.非常に多いが、急激にできたものもかなりある。人数が多すぎたり、構成員の帰属意識が希薄であったりで、まとまりがないものも多い。
 

Q.このプロジェクトでは、NGOや専門家の役割は何か。

A.主体は住民組織。NGO、専門家は研修、技術指導を行う。
 

Q.牛を飼う場合のCost-Sharingで住民負担が5%というのは低すぎないか?

A.元の値段が高いので、5%を越えるとアクセスできないだろう。井戸も5%、牛も5%である。牛はよく死ぬ(死亡率10%)ということもあるのか、牛のCost-Sharingに対する要望が圧倒的に多かった。
 

Q.プロジェクトの問題点として

A.テクニカルな部分では、殆ど知らない農業技術の受け入れがある。液肥と高畝はなかなか理解されなかった。「Cost-Sharingでなければ支援できない」というスタンスも「それができない貧困家庭はどうするのか」という批判がある。
 

Q.村人が「資源の豊かさ」に気づいた、というのは主に何か。

A.例えば、液肥。失敗しなかった。何も外から持ってこないやり方で、ある程度までできたとなると普及するかもしれない。ただ、牛の糞が必要になる。たまたま村で牛耕の方法を知っている人がいた。家畜の少ないモザンビークで、牛を飼っていた時代の記憶を持っていたわけだが、こういった状況が例えば南部地域でどのくらい一般的なのか現時点では断言できない。効果については農民の声をこれから集めるところである。
 

Q.FAOのアプローチが二つあると言うが、一言で言うならどういうことか。

A.IPPMは「低投入型・環境保全型」と言ってよい。SPFSは、多投入型の近代農業(企業的農業、灌漑農業)による「食糧増産」を目指すものである。
 

Q.SPFSに日本政府はどう関係しているのか

A.現在、アジア4ヶ国(インドネシア、ラオス、バングラデシュ、スリランカ)のSPFSに資金協力中である。
 2003年のTICAD3(第3回東京アフリカ開発国際会議)では、7つの重点分野のひとつ「食料安全保障と農村開発」において、SPFSへの資金協力を全面に押し出す考えである。
 FAOから資金協力の打診があったアフリカ3ヶ国(エチオピア、モザンビーク、スワジランド)について、協力の可能性を検討中。

[コメント]

1)3点セット(種子、農薬、化学肥料)

多収量の品種は、特定部分が異常に大きくなったもの。特定の化学肥料、特定の農薬を使わなければ、育たないのも当然だ。コストがかかるものを導入するには、現地の状況を見なければいけない。

2)村の「標準化」

この村は新しい開拓村である。村民(入植者)はそれぞれ個別のスキルも動機(市場出荷 or 自給)も違う。10年経ち、20年経つと村の生業形態等には「標準化」が行われるのではないだろうか。

3)タンザニアのJICAプロジェクト

キリマンジャロ州のあるJICA専門家。現地の稲作農家に対し、1年間、こまめに手入れすることの必要性を説き、それを実証した。結果がはっきり見える形で農民の意欲を引き出そうという試みは評価できるのではないか。

4)よいプロポーザルが書けるかどうか

ケニアで、仕事柄、現地のNGOが出すプロジェクトの計画書を見ることがある。よいプロポーザルとよい「開発」は別物だ、と実感する。

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第4回公開講座案内
『農村・農業開発におけるNGOの役割〜ガーナ国での活動を通して〜』

講師:増見国弘氏
   (日本大学生物資源科学部助教授、国際開発フロンティア機構理事長)
講師からのひと言:
我が国の途上国への農業協力(ODA)は、今日まで相手国農民の実態から問題発掘をして行く現場直結型プロジェクトというより、セクター別縦割り技術の政府間技術移転という性格を持ち、現在もその色彩を色濃くしている。我が国のNGO農業協力はこうしたODA農業協力とどのような力点の差を置いて活動すべきなのか。ガーナでのIDFO(NGO)とJICA農業プロジェクトとの活動体験をもとに述べると共に、今後の日本のアフリカへの農業協力のあり方とNGOの役割と活動について皆様と考えていきたい。
日時:2002年4月25日(木)18:30-21:00
会場:東京都文京区立茗台生涯学習館
営団丸の内線茗荷谷駅から徒歩10分
(文京区春日2-9-5 / tel. 03-3817-8306)

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第4回公開講座報告

日時:2002年4月25日(木)18時50分−21時
会場:東京都文京区立茗台生涯学習館
講師:増見国弘さん(国際開発フロンティア機構 理事長)
題目:「農村・農業開発におけるNGOの役割−ガーナ国での活動を通して−」

出席者

今回は、開発コンサルタント、NGO、JICA、研究者といった「開発」の業務に関わる方の他、学生の参加者も多かった。合わせて28名になる。

内容

河内が司会を担当した。はじめに、講師の方から解説を頂き、その後、質疑応答/討議へと進んだ。

[配布レジュメ(本文)]

1.はじめに

  1. 特定非営利活動法人 国際開発フロンティア機構(IDFO)について

    「風の学校」海外分校として1981年フィリピンに熱帯農業研修所設立、1996年「国際開発フロンティア機構」

  2. アフリカとの出会い

    1986年のエジプトの稲作機械化プロジェクト、1991年象牙稲作機械化訓練計画事前調査、同年エジプト第三国研修評価、1996年象牙稲作機械化終了時評価、1996年ガーナ小規模灌漑農業振興計画長期調査、同年道実施競技調査、1996年から2002年2月までJICA営農・農民組織化専門家、2001年ガーナ大統領の招待により自民党援助調査団 同年AICAFの実証調査の候補地選定

2.ODA農業開発協力の実態と課題
−セクター別縦割り技術の政府間技術移転−

  1. プロジェクト発掘・採択・形成(R/D)およびTSI
  2. プロジェクト実施運営と専門家活動
  3. モニター、終了時評価
  4. 調査団派遣と本部、国内支援委員会、現地事務所、日本大使館等の支援制
  5. 各省会議 農林水産省、JICA、外務省

3.我が国の農業・農村開発協力NGOの現状と課題

  1. 小規模な資金と連帯性の不足
  2. マネージメント能力の不足
  3. 組織作りなど構造再編の取り組みの未熟

4.ガーナでのODA及びNGO活動の事例から

1)IDFOの活動

a. ガーナ・伝統的村落社会における農民の組織化による土地利用の高度化
b. ガーナ北部地域における女性の地位向上のための農民組織化支援

2)ODAの活動

ガーナ小規模農業振興計画:モデル営農システムを改善する

5.NGOの役割

地域社会密着型をより深めるため、相手国農村・農民社会の深部に入り込んで活動することによって社会的責任を負う生活をももつことである。NGOは、農民の自助努力(オーナーシップ)によるムラづくり・組織作りや貧困層への到達のため、場合によっては、ムラの社旗構造にまで切り込んでプロジェクトを展開すること。

  1. 社会構造(制度、社会)内部からのアプローチ
  2. 村作り、組織作り、貧困層への
  3. 流通、クレジット
  4. ODAの対座勢力、補完勢力となる。

[講師からの指摘と提言]

1)日本の技術方式とPCM

  • 日本のJICA技術協力は「直営方式」、ドイツのGTZも同様の方式であるが経済協力省と案件の契約を結んだ「直営方式」である。米国のUSAIDはコンサルタント、大学、NGOへの「委託方式」である。このような委託方式であるから第三者機関による外部評価が実施しやすく、専門家、コンサルタント等の競争原理により効率効果的な援助が実施できると考える。
  • GTZとJICAの仕組み・制度が異なることから、現在のJICAの事前、長期、R/D等の各調査団のメンバーが異なる分業方式、専門家リクルート方式によるチーム編成とプロジェクト運営方式ではPCMによる効果・効率的プロジェクト運営は図られないと思われる。
    PCMの問題をよく聞くが日本の制度・仕組みに合ったプロジェクト運営管理方式をつくることが必要ではないか。
  • ガーナのプロジェクト長期調査に派遣された時、東京で「問題分析」のマトリックスを作成し現地に行った。相手国の実施機関は現地調査も十分行っていないのなぜ「問題分析」ができたのかと非公式に言っていた。現地の実態調査が十分行われないままに、プロジェクトの課題が設定された。
  • モニター、評価についても現地専門家が主に作成し、調査団が確認するという評価方式である。

2)アフリカの食糧増産への取り組みについて

  • アフリカの食糧増産にまず米ありきと言うことでよいのであろうか。
    アフリカでは水は貴重な生活用水である。代かき、仕込み水等大量の水を必要とする水田稲作は水不足のアフリカ農民の眼にどのように映るであろうか。換金作物であり雑穀物であるこのような米は日本人が考える米ではないと考えられる。食糧として根菜類、トウモロコシ、プランティーンバナナ等多くの食料作物があり、米はその中のひとつであることから農民は収益性のある作物を選択するであろう。生産性追求だけでなく米は高コスト、低価格と言われている面にあることから農家経営からも作物の導入を検討することが重要であろう。

3)NGO

  • 国家のニーズと農民のニーズは一致しない場合がある。国家の食糧自給、外貨節減の米政策と農民の欲する農業所得の向上とは一致しないこともある。
  • ODAは官から官への技術移転である。現場からのアプローチではない。NGOは農村社会の内部の変革が求められる場合がある。
  • NGOは資金不足のため継続性が難しい。
  • NGOはODAの対座勢力、補完勢力として存在することが必要である。

4)今後のあり方etc.

  • JICAも協力の効率・効果を図るため直営方式から委託方式にすることが必要ではないか。
  • 専門家の活動を支援するためまた相手国のためにもリーダー、現地事務所は相手国実施機関に言うべきをきちんと言うことが必要ではないか。ガーナでの活動ではその必要性を強く感じた。私自身農民組織・営農が担当であり「農民組織育成強化」に努めるた結果、実施機関の総裁等一部はあまりその活動を快く思わなく、延長について2回否定されたが農民組織および大臣がその成果を認め延長支援をしてくれた。その時リーダー、現地事務所の役割に疑問を感じた。その後その農民組織は立派に育ち、農業大臣も大変評価し農民組織の成果について各地域で演説を行っている。
  • 協力隊派遣についてその枠をNGOにも与えることにより、より現場からのアプローチができ、成果が期待できるのではないか。

[質疑応答]

割愛。

[コメント]

・とにかく専門用語が多いので、解説が欲しい。
→別途。AJFのHPにアップします。

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第5回公開講座案内
題目 :『持続的村落開発−ザンビア・ケース』

講師:二木光(にきひかる)氏(国際協力専門員 国際協力事業団)
講師からのひと言:
外発的開発のみに頼っては持続的農村開発は望み得ない。一方、地域資源、農民の潜在力の総動員が有効である点は関係者の理解するところであるものの、普遍化された手法は確立していない。更に、ある一国の農村部を均等に開発する手段も、限定された予算条件下、弱体な普及制度では困難である。これらに一つの解を与えようとした試みを紹介する。
日時:2002年5月31日(金)18:30-21:00
会場:東京都文京区立文京区民センター3階 3D教室
都営地下鉄三田線春日駅線より徒歩1分
(東京都文京区本郷4-15-14/TEL 03-3814-6731)

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第5回公開講座報告

日時:2002年5月31日(木)18時40分−21時
会場:東京都文京区民センター
講師:二木光(にきひかる)氏(国際協力専門員 国際協力事業団)
題目:『持続的村落開発−ザンビア・ケース』
出席者:今回も、開発コンサルタント、NGO、JICA、研究者といった「開発」の業務に関わる方の他、学生の参加者が多かった。合わせて22名になる。内容:河内が司会を務めた。まず、「農村開発」という概念に関し、講師から整理があった。続いて、PASViD(参加型持続的村落開発)の紹介が行われ、「参加」概念に関する問題等が指摘された。その後、質疑応答・討議に移った。
パワーポイントetc.で示された具体的な内容は、以下の通り。

[講師より]

1.農村開発という概念

  1. 農業開発/地域開発との違い

    農村開発は、地域開発の中に含まれるが、農業を核にしたものを指す。また、農業開発が農業生産の増大、改善を目的とし、人や土地等はその手段として位置づけられるのに対し、農村開発は、地域住民の福祉向上を直接的な目的とするという点で違いがある。

  2. 究極の目標

    現時点のみならず、未来の住民(家族)と農村地域(集落)における総福祉の極大化を計ることである。

  3. 目的:以下の5点が指摘された。
    • 社会的不公正の是正
    • 地域(村落)共同体と農民の経済自立
    • 健康及び居住アメニティー改善
    • 周辺生態循環・伝統の保全
    • 都市との共生

2.PASViDとは?

  1. 定義
    • 小規模村落における     ・・・対象地域
    • 村民(特に小規模農家)の  ・・・対象者
    • 収入増、生活水準向上を通し ・・・目的
    • 豊かな自立社会を構築するため・・・究極目標
    • 村民が主体となって     ・・・実施主体
    • 事業企画・実施・評価を行う ・・・活動内容
    • 手法            ・・・性格
  2. 概要
    • ファシリテーターが資金調達の目処を立て、PRA等により対処婦村落基礎調査を行う。
    • 村民(50人〜100人)が参加するPCMワークショップを開催し、マイクロプロジェクト(インフラ建設、小企業)を開始する。ひとつの村あたりの予算は100米ドル/家族、つまり100家族の村で1万ドルが目安(ザンビアの場合)になる。
    • 3年後に評価し、事業継続のための教訓を得る。
    • 村落共同体規模で経済活性化を計る。
    • 究極的に豊かで自立した共同体を目指す。
  3. 戦略
    • 外部からの経済支援は事業開始時のみであるため、以後は自助努力で資金送出する。
    • 自主自立のための共助活動を促し、以後は控除活動として技術・情報の提供をする。
    • 出来るだけ多くの村内資源動員を促す。
    • 農協等の共同体活動を活性化する。
    • 生産・生態・生活各環境の持続性を重視する。
    • 弱者(貧困層、女性等)に配慮し、公正を期す。
  4. 限界
    • ファシリテーター(普及員)に対する総合的村落開発指針・手法であるため、個々の技術や組織運営法には触れていない。
    • 持続的農業技術開発・普及が遅れている時、村落開発の持続性は保証されない。
    • 国家経済開発に対しては遅効的・部分的である。

3.「参加」の陥穽:以下の5点が指摘された。

  • いずれの事業に置いても住民参加は当初住民発意ではなくドナー主導による。
  • ドナーは「参加の実績面」、つまり頭数に注目し、数値や映像記録で満足しがちである。
  • ドナーは、住民に対し見え透いた結論への誘導をし、あたかも住民をして変革へ参与した錯覚を植え付けようとする。
  • 外発的開発事業への労働参画に経済的余得を付加し、「参加」を「直接受益」で糖衣している。
  • これらの所作からは住民のダイナミックな共感と、その後の変革主体としての自覚は生まれない。

[質疑応答]

Q.参加型マイクロプロジェクトをパイロット地区(2村)で実施したと言うが、その結果はどうなったか。

A.ひとつは、ルサカから約40kmと町に近い村。ロバを持ち込み、「灌漑」を導入した。ひとつは、ルサカから約75kmにある山中の村。「灌漑」施設は導入せず。女性グループによる「制服作り」を始めた。どちらも軌道に乗った。
 

Q.二つの村のFacilitatorに力量差はあったか。

A.あった。しかし、2週間の時間をとり、研修を実施した。研修の対象者は、SAO(Senior Agricultural Officer)である。
 

Q.農業普及員は、Facilitatorとして能力が高いと言ったが、もともとなのか研修等で身につけたスキルなのか。

A.PCMとPRAをあわせた研修を、世銀が行っていた。その研修を彼らは受けていた。したがって、私が初めて研修を行ったというわけではない。
 

Q.プロジェクトの費目で、例えば人件費はどのように計上したか。

A.まず、外の技術者のFeeは、件の1万ドルから出す。普及員の交通費は、その1万ドルから出すようにした。
 

Q.PASVIDの有効性はどうやって検証するのか。

A.村でワークショップを行う。リスク分析を行う。事前に、PDMに外部条件を盛り込む。
 

Q.保健や教育の関係で村をまわる普及員というのはいるのか?

A.地域開発オフィサーがいるが、予算が無く不充分である。農業普及員は農業に特化しているが、こちらは地域全体を見る。
 

Q.カウンターパートは、本業が疎かにならないか。

A.きれいごとだが、そうでもない。
 

Q.現地のNGOとは一緒に動いたのか。

A.それは、一度も無い。
 

Q.サイト選定の基準は?

A.絶対に成功させねばならない、という前提が大きな縛りとしてあった。そのためには、村長がしっかりしていることと首都から近いことを条件にした。他にも8つほど、条件をつけ、点数化して、上位2ヶ村を選んだ。
 

Q.日本のNGOが近くにいれば、何らかのアクションを起こすか。

A.日本のNGOはいなかった。ヨーロッパのNGOはいたが、特に関係は無かった。「関係しない」と決めているわけではないが、本プロジェクトのコンポーネントとして「NGOとの連携」は、持っていないということである。現時点ではアクションプランを打ち出していないが、考慮すべき点であることは確かだ。
 

Q.共同作業は難航しないか。

A.平等感を保ちながら、負役を行うことができるかという点がポイントである。そこで、面識集団を前提にした。
 

Q.アジアとアフリカの違いを感じるか。感じるとすれば、どういった部分か。

A.アジアはCompetitiveだが、アフリカは相互に協力的だ。持続的な農法ということなら、アフリカのやり方になるのではないか。

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第6回公開講座案内

日時:2002年6月29日(土)13:30-16:30
会場:東京都文京区立音羽生涯学習館
   地下鉄有楽町線護国寺駅(出口1)より徒歩2分
   東京都文京区大塚5-40-15
   Tel:03-5976-1290
題目:『農業及び社会開発アプローチとしてのIPM、そしてIPPM』
講師:木村 忠氏(FAOコンサルタント)
講師からのひと言:

IPM (Integrated Pest Management) のコンセプトは1960年代に確立され、1992年の環境サミットでも、その持続可能な農業における役割が再認識されました。しかし、 IPM の定義や解釈は今もって様々に分かれており、また日本の援助関係者の中にも、「IPM は理想ではあるが、慢性的な食糧不足に悩む途上国地域に導入するのは、まだ現実的でない」との意見があります。

ここでは、環境サミットの成果を受けて、1995年に国際機関 (FAO, World Bank, UNDP, UNEP) が共同設置した Global IPM Facility の活動とその成果を、主にアフリカの事例をもとに紹介します。更に、ジンバブエにおいて IPM を拡大して生まれ、アフリカ各地に広がりを見せる IPPM (Integrated Production and Pest Management) の紹介を通して、単なる作物保護にとどまらない IPM や IPPM の現状、課題、可能性について、みなさんと共に考えたいと思います。

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第6回公開講座報告

2002年6月29日(土)、東京都文京区立音羽生涯学習館にて開催。

FAOコンサルタントの木村忠さんに『農業及び社会開発アプローチとしてのIPM、そしてIPPM』の解説と問題提起をしていただいた。参加者は15名。

まず、以下のレジュメに沿って説明が行われ、その後、質疑応答・討議に移った。パワーポイントetc.で示された具体的な内容は、以下の通り。

[レジュメ]

  1. IPM (Integrated Pest Management) とは
    • 「防除」だけではない
    • 「減農薬農法」ではない
    • 「一般防除」だけのものではない
    • 「農民のため」だけのものではない
    • 「技術パッケージ」ではない

    そしてゴールではない!

  2. Global IPM Facility
    • FAO、世銀、UNDP、UNEPの共同設置
    • 事務局はFAO本部内(ローマ)
  3. IPMの4つの原則
    • 健康な土壌と作物を育てる
    • 健康な農業生態系を守る
    • 定期的に耕作地を観察する
    • 農民が自らの耕作地の専門家となる
  4. IPPM (Integrated Production and Pest Management)
    • Production(生産)とProtection(防除)の両側面を強調
    • IPMと異なる概念ではなく、むしろこれがIPMの実態
  5. FFS (Farmer Field School)
    • 実験、観察、仮説の検証などを通し、農民が自ら意志決定し、行動するための実地トレーニングであり、学びの場
    • トレーナー/ファシリテーターと農民のパートナーシップ
    • 農民は情報の受け手ではなく、その土地に根ざした技術の構築者であり活用者
  6. Vehicle(伝達手段)としてのFFS
    • FFSで扱われるSpecial Topicの例
      グループ・マネジメント、マーケティング、HIV/AIDS、食糧安全保障、栄養・健康管理、環境管理、会計管理、家族計画、識字教育など
  7. IPM/IPPMの課題
    • 理念・定義の氾濫・通俗化
    • 普及の阻害要因
    • 代替技術開発・普及の遅れ
    • 評価の難しさ
    • 政策への働きかけ
    • プロジェクト後の持続性
    • 農業セクター、そしてセクター間の連携構築
    • ドナーの役割

[質疑応答](Q:質問 A:回答 C:コメント)

Q.IPMというのか何か? 概念なのか?

A.具体的なアプローチの手法である。
 

Q.IPMなのか、IPPMなのか。

A.もっとも広く用いられている用語としてはIPMで、アジェンダ21などにも記されている。IPPMは、ジンバブエの国家プログラムで初めて採用されて以降、他の多くの国に広がってきている。但し、IPMも狭義の「防除」にとどまらないことから、実質的な内容は、IPPMである。
 

Q.IPMのトレーニングは、従来から各農民の耕作している土地で行うのか。それともFFSとの同時進行か。

A.FFSとしては、コミュニティの同意によってトレーニング用に確保された土地で実施するが、参加した農民は学んだことを即日でも自分の土地で実施することができる。
 

Q.Facilitatorがアジアから来ているが。

A.IPMは、最初にアジアの稲作地帯、次いで他の作物で試され、その成果がアフリカに導入された経緯があるので、アジアで経験を積んだ人材を他の地域に招くことはある。
 

Q.先進国で、IPM/IPPMはどうなのか。

A.一定の評価をされている。但し、農薬多用型農業に導入される場合は、結果的に減農薬になることが多いものの、IPM/IPPMは減農薬を目的にしているわけではないことに注意が必要である。
 

Q.映像を見る限り、FFSの参加農民は殆ど男性だが、これは識字との関係なのか?

A.女性の参加は重要であり、そのことについても事前にコミュニティーと話し合っているが、トレーニングへの参加者はコミュニティ側に人選をしてもらっている。女性または男性が参加者の大半を占めるFFSもある。ジンバブエの場合、全体を平均すると、男女が半々だ。FFSの参加者が女性ばかりのコミュニティは、「男性が殆ど出稼ぎ」というケースが多い。

C.スウェーデン、オランダでは「農業セクターの援助」というのが無い。「環境保全の援助」という枠になる。

Q.FAOの資金で、IPM/IPPMをやっているのか。

A.FAOがパイロットプロジェクトを実施することはあるが、「FAOが自らの資金でIPM/IPPMを実施する」というのは誤解を招く。国際機関としてのFAOは、むしろ調整役。プロジェクトを求める国とドナーとをつなぐ役割をもっている。東アフリカ(ケニア、ウガンダ、タンザニア)のケースは、IFADの資金が使われ、ジンバブエも第1フェーズはFAO主導で、第2フェーズは国家プロジェクトとしてオランダによる二国間援助になっている。
 

Q.なぜジンバブエか。

A.アジアでの成果を踏まえ、Global IPM Meeting が1993年に行われた。その時、アフリカからも関係者が招待されたが、その後ガーナとジンバブエからIPM/IPPM導入に対する支援要請があった。ジンバブエは、綿花→トウモロコシ→野菜の順でIPPMを導入した。
 

Q.Global IPM Facilityの共同スポンサーに世銀が入っているが、その理念に合うのだろうか。

A.実際には、絶えず議論が行われている。例えば世銀の主張は、「IPM/IPPMは評価するが、その普及方法としてFFSにこだわりすぎているのではないか」、「FFSはコストが高く、Fiscal Sustainabilityが低い」などがある。
 

Q.世銀がIPMの普及を支援しているというのは、「構造調整」の失敗から来ているのではないか。

A.むしろ、リオサミットの流れで行ったのではないかと思う。
 

Q.相手国政府の要請と言うが、それを待っていることに問題は無いのか。積極的に要請を出したという先ほどのガーナやジンバブエは例外的では?

A.FAOのプロジェクトは基本的にパイロットであり、小さい。その後、国家プロジェクトとして継続してもらうための基礎を作る役割を果たすことが多い。国際機関は、自ら何かを決めるというよりも国際社会での調整役。国際会議やワークショップなどを通して情報提供したり、支援を求める側とドナーとの間をつなぐ役割が大きい。バイのドナー(二国間援助機関)は、政策や予算があって自ら動けるが、マルチのドナー(多国間援助機関)は違う。
 

Q.日本での評価は?

A.総論としては賛成だが、各論としてどこまで評価されているかは疑問。例えば、日本の援助でIPMやIPPMの技術協力をしている例を、私自身は承知していない。またFAOに対しても、IPM/IPPMのプロジェクトを目的にしたトラストファンドは入っていない。
 

Q.評価はなぜ難しい?

A.経済指標だけでは済まないことが大きい。農民のエンパワーメントや農民の生活全体の向上、人体や環境への影響など、幅広い社会的要因をも含めて評価を行わなければならない。多くの専門家が検討を重ねているが、IPM/IPPMのプロジェクトを包括的にとらえる評価手法はまだ確立されていない。
 

Q.IPMは、商業的農業ではどうなのか。

A.企業の直営農場では、IPMで生産された材料を使っていることをを売りにしたものもある(Campbell Soup Companyなど)。
 

C.土地改革なしに無理なのではないか。
 

C.改革無しの土地でも、一定の効果がある。
 

Q.FFSは、12〜16回の「研修」である。これで伝わるのか。

A.何よりも、出発点を作ることが出来るかどうか。トレーナーやファシリテーターの役目はそこにある。FFSによっては、参加者の発案でCommercial Plot を作る、ということを始めたところもある。そういった形で「研修」の成果が農民自身による「実践」になっていくケースもたくさんある。
 

Q.どうして、そのやり方に金がかかるのか。

A.一番の負担は、トレーナーやファシリテーターの交通費だ。これがかかる。
 

Q.FFSには、何かモデルがあるのか。

A.FFSは、アジアの米作地帯でのIPM、具体的にはインドネシアで始まった。
 

Q.R.チェンバース等の影響では?

A.それはわからない。現場で活動していた多くの人々(70年代〜80年代)は、自分たちがFFSを考えついたと主張しているのだが、活動対象が重複しているソーシャルワーカーなどの手法からヒントを得たり、影響を与え合ったこともあるだろう。実際のところは不明である。
 

Q.かつての「総合的農村開発」的な発想からの評価は生まれないのか。

A.FAOの中に色々なセクションがある。IPMは防除から出発したが、他のセクションの活動との間でも、かつてのように明確な線引きは難しくなっており、評価手法の検討にも幅広い経験が生かされてきている。
 

Q.学生に、FAO横浜事務所の見学に行かせた。サミットで英国が「FAOは時代遅れ」と発言したことについて尋ねたところ、対応してくれた方に怒られてしまった。FAOの体質というのは、どういうものなのだろうか。

A.国際機関の中でも歴史の長い、そして大きな組織であり、最新とはとても言えない。古いタイプの縦割り組織という状況から抜け切れていないところもあるだろう。
 

Q.どこまでGlobal IPM Facilityがやるべきなのか。

A.二つの考え方がある。社会開発アプローチとして考えるなら、その範囲は拡がっていく。実際に、FFSの中では農業以外の様々な内容、例えばHIV/AIDSなどについても情報提供をしている。しかし、それをGlobal IPM Facilityとしてどこまでやるのか、という議論は内部的にもある。現在は、あくまでも活動の中心はIPM/IPPMであり、他の内容については導入だけを行い、さらに深い内容についてはそれぞれの話題の専門機関・組織に話をつなぐなどして任せるようにしている。
 

Q.このアプローチは、よいのだが、生産性を上げるのには向いていないのでは?

A.生産性を上げるということで効果を測るのであれば、色々な方法があると思う。しかし、それだけではIPM/IPPMの一部にしか目を向けないことになってしまう。例えば、外部投入資材(化学肥料や農薬など)をほとんど使用していない地域で、食糧生産量の確保を最優先するために、IPMやIPPMは使えず、まずは外部資材多投入型(High Input)な農業を導入すべき、ということであれば、その後IPMやIPPMといった低投入型の農業を普及するのに非常な困難を経験する。これは、多くの先進国が経験していることだろう。むしろ、現在低投入型の農業(Low Input)を行っている地域に、High Inputの時期を経験することなく科学的にも検討されたIPM/IPPMを導入し、現地で入手可能で、再利用可能な資源を最大限に有効利用するような農業を普及することに積極的な価値を見出していくべきなのではないか?
 

C.アジア学院がやっているのは、まさに低投入型農業だ。わざわざ一度High Inputな農業を普及してから、低投入型に移行しようというのはやはり問題が大きいと考える。
 

C.ただし、それはHigh Inputを経験し、その問題点も知った上で初めて低投入型とか有機農業とかいったものが出て来るとも言えるのではないだろうか。
 

C.生産力が問題というわけではないのでは? むしろ、問題は、社会構造が様々なショックに強くないことにあると思う。高投入なら生産力も高い、というイメージがあり、私が関わっているJICAのプロジェクトでも、カウンターパートの農業省からは「低投入型」という言葉に対する拒否反応がある。
 

C.ここで話されていることは、事例として距離感がある。ケニアの半乾燥地では、もっと状況が厳しい。
 

C.確かにケニアでは、有機農業をやっているNGOもある。それはケニアだと高投入がコスト高になるからだ。例えば、ジンバブエ等の場合、改良品種が小規模農民にも普及している。
 

C.しかし、ジンバブエにはPELUMのような有機農業の普及を進めているNGOもあると聞いている。
 

C.最低限の投入を調整しながら進めていくIPMは、生産としても意味があることだと思う。
 

C.ただ、援助として化学肥料が大量に入っている中で、IPMの概念がどこまで共有されているのか。援助はCommon Basketに入ってしまい、ドナー間の調整が難しいのではないだろうか。

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第7回公開講座案内

日時:2002年9月20日(金)18:30-21:00
会場:東京都文京区立音羽生涯学習館
   地下鉄有楽町線護国寺駅(出口1)より徒歩2分
   東京都文京区大塚5-40-15
   Tel:03-5976-1290
   地図は、以下のURLを参照。
    http://www.city.bunkyo.tokyo.jp/shisetsu/map/map_b1.html

題目:SG2000とネリカ米の将来
講師:高瀬国雄氏(国際開発センター理事。AJF副代表)
内容:今回は、モザンビークとマラウィでSG2000(笹川グローバル2000)のプロジェクト評価を行い、ギニアとコートジボワールでネリカ米のプロジェクトを視察してきた高瀬氏を講師にお招きします。こういった内容は、普段、聞く機会がそれ程多くありません。ディスカッションの時間を充分に取ります。ご参加いただければ幸いです。
資料代:500円

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第7回公開講座報告

2002年9月20日(金)、東京都文京区立音羽生涯学習館にて開催。

国際開発センター顧問でアフリカ日本協議会副代表の高瀬国雄さんに『農笹川グローバル2000とネリカ米の将来』の解説と問題提起をしていただいた。参加者は20名。

[講師による説明]

レジュメの目次は以下の通り。

  1. 笹川アフリカ協会/笹川グローバル2000(SAA/SG2000)の活動
  2. SG2000の外部評価(マラウィ、モザンビーク)とギニア稲作
  3. アフリカ開発40年の教訓
  4. アフリカ農業の特性とWARDAの研究成果
  5. 「ネリカ米」:アフリカの希望
  6. 主要ドナーの農村開発戦略
  7. 食料生産と肥料投入量の世界的比較
  8. コメ生産の歴史的発展
  9. 西アフリカ稲作農業の中・長期的戦略(提案)
  10. TICAD3への準備

(このうち、5.はWSSDにおけるイベント案内、7.8.10 は図表である。)

これらを抄出して、以下に述べる。

1.笹川アフリカ協会/笹川グローバル2000(SAA/SG2000)の活動

  1. 成り立ち

    1980年代初めのアフリカ諸国の飢餓に対して、笹川アフリカ協会(SAA)を設立。 カーター・センターの農業・保健衛生プログラムのグローバル2000との共同プロジェクトなので、笹川グローバル2000と呼ぶ。1986年にガーナとスーダンで食料増産技術の移転プロジェクトを開始。SAAの会長は緑の革命をもたらした功績によって1970年にノーベル平和賞を受賞したノーマン・ボーログ博士。現在、サブサハラアフリカ10ヵ国でプロジェクトを行っている。

  2. プロジェクト

    小規模農家の生産性を向上させるための技術移転が根幹である。対象国の農業普及部門を通じて、近代的な増産方法を零細農民に伝える方法をとる。SG2000は、農業普及員を通じて、食料穀物の種子と肥料を含む生産財のパッケージをプロジェクト参加農民に有償で配付する。農民は自分の土地(0.1-0.5ha)に、種子を植え、施肥を行い、収穫までの技術を学ぶ。収穫時には、技術の成果を具体的な「量」として実感することができる。通常、殆どの国で従来農法による収量の2−3倍以上の収穫を上げることに成功している。

  3. 持続性と現地化

    SG2000は、対象国の農業普及機関と競合する機関を作るのではなく、現地機関の強化を目的としている。現職の農業普及員を再教育するプログラムも行っている。また、農村に貯蓄・融資組合を組織し、SG2000の活動終了後も、生産活動が継続できるよう努力している国もある。

    エチオピアでは1995年より、SG2000の方法をそっくり真似た増産のデモンストレーション活動を政府独自の財源で数百万も展開している。ただ、現実には殆どの政府が財政難から小規模農業振興へ予算が振り向けられない。今後は、対象国政府の農業政策が実質的に食料生産の改善に向かうよう、政策レベルでの働きかけを強化していかなければならない。

2.SG2000の外部評価(マラウィ、モザンビーク)とギニア稲作

  1. マラウィ

    SG2000の歴史は浅い(1998年開始)。しかし、メイズの最新技術を駆使して1t/ha以下だった収量を、平均5-6t/haまで上げていた。QPMという新品種の成功は大きかった。しかし、政府予算のうち、農業・自然資源開発に12%しか振り分けられていない現状では、国全体の食料自給はまだ遠いと言わざるを得ない。

  2. モザンビークの場合

    既に7〜8年経っているのに、農家の平均収量は、4t/haにも達していない。政府予算のわずか6%しか農業に配分されていないこと、大洪水があったことの他に、農家の作物選択が主食のメイズに集中せず、より収入の多い大豆、野菜、ポテト、牧畜などに分散しているため、技術移転が不充分なこと、荒地開発に重点が置かれていること等にも原因があるのではないかと思われる。

  3. ギニアの場合

    SG2000のプロジェクト実施国10ヵ国の中で、米に重点を置いている唯一の国である。西アフリカの中で、この国が成功した理由は以下の3点。

    • 大統領自身のイニシャティブ
    • SG2000の指導が政府農業研究普及局と一体となって活動したこと
    • 世界銀行、アフリカ農業研究プログラム、日本、UNDPなどのドナーとの協力を適切に組み合わせ、ギニアの雨量・地形に合った戦略をとったこと

3.アフリカ開発40年の教訓

「1960年頃に始まったアフリカ諸国の相次ぐ独立は、数百年の植民地から再生するアフリカ大陸にとって、大きな転換点となった。しかし、政治的には独裁、経済的には計画経済、社会的には部族対立、自然的には砂漠化と環境破壊、そして国際的には一次産品価格低下などの複合的影響に見舞われた。先進ドナーの戦略転換も功を奏せず、アフリカ開発40年の教訓が今こそ問われている。」

4.アフリカ農業の特性とWARDAの研究成果

  1. アフリカの主食はメイズ、イモ類、ソルガム、コメ、小麦、ミレットの順となっているが、近年サハラ以南アフリカではコメ消費量が激増し、年間1,200トンに達している。特に西アフリカでは年間800万トンの消費があり、そのうち300万トンを輸入に頼っている。
  2. 1994年頃から、西アフリカ稲作開発協会(WARDA)で、アジア米とアフリカ米の長所を生かした品種が開発された。2002年3月には、コートジボアールにて「African Rice Initiative(ARI)」が発足し、西アフリカ7ヵ国5ヵ年のパイロット・プログラムがスタートした。

5.「ネリカ米」:アフリカの希望

ヨハネスブルクの「持続的開発サミット」において、日本館を会場にネリカ米のデモンストレーション行われた。

6.主要ドナーの農村開発戦略

1990年、東西冷戦終結と同時に、それまで30年も続いた欧米ドナーに「援助疲れ」が吹き出し、東欧・旧ソ連圏援助へとシフトしていった。この後、日本が引き継いだTICAD1/2の前途も明るくない。

7.食料生産と肥料投入量の世界的比較

アフリカが特別少ない。アジアなどは150kg/haに対し、アフリカは10kg/ha以下である。

8.コメ生産の歴史的発展

日本の1400年間のコメ生産と、アジア・アフリカ各国の現状を、単位面積(1ha)辺りの収量について比較した。日本では、1877年兵庫県の篤農家による神力(しんりき)という品種が開発されたが、これが近代日本における緑の革命である。西アフリカ諸国は現在、1〜1.5t/ha、東南アジア諸国は2.5〜3.5t/ha、中国・韓国は4〜5t/ha、日本は6t/haである。

9.西アフリカ稲作農業の中・長期的戦略(提案)

  1. ネリカ陸稲の開発は「食料増産の出発点に立った」ことである。このまま、陸稲を増やしても焼き畑による環境破壊が進む恐れがあり、食料安全保障の目標には、まだ程遠い。
  2. そこに至るまでの中期計画として「ARIパイロット計画」の目指す2006年を設定する。低地稲、灌漑稲の開発と共に、豆科作物との輪作、水管理、化学肥料の活用、農民組合の結成、農産物加工、市場、インフラの整備等が必要である。
  3. 日本として中期計画に協力すべきものを以下に提案する。
    • パイロット国の普及・研究機関へのアドバイザー派遣
    • 国際肥料開発センター(IFDC)に、肥料・調達への技術協力を委託する。
    • 南南協力による国際機関、NGOなど(WFP,SG2000,FAO,AICAF)の活用・JICA協力のFlexibilityの増加
    • 2KR(食糧増産援助)の拡大(食料増産→農村開発)とその見返り資金の活用
    • WARDA研究のPhase3による西アフリカのコメ自給率改善
    • 食料、環境、貧困格差是正のためのMinimumインフラ(low cost)
    • 各国の多様な稲作の実態を把握し、統計を整備する。
    • 青年海外協力隊シニアのアフリカ国際協力への積極的投入。
    • NEPADの優先順位の確定と、NERICAの位置づけ。

10.TICAD3への準備

外務省のTICAD2経験とヨハネスサミットから得られた構想の下に、TICAD3までの具体的提案を行う。それには、全日本協力体制の強化が必要である。

[Q&A](Q:質問 A:回答 C:コメント)

笹川グローバル2000に関しては、その成立からプロジェクトの内容まで、講師による説明に多くの時間を使った。そのこともあり、質疑応答・ディスカッションは、以下に記すように、殆どネリカ米に関するものであった。

Q.ネリカ米はハイブリッド米か?

A.ハイブリッド米ではない。
 

Q.多くの肥料が必要ではないか。

A.土に養分があるなら要らない。しかし、アフリカは古い地層で地味がよくないので、最も肥料を多く必要とするはずである。
 

Q.肥料を農民はどこから得るのか。

A.現在では手に入らない。そこで二つの方法を考えている。ひとつは、硫酸塩岩の山を崩して肥料にし、地味を肥やす方法である。もうひとつは、IFDCがバングラデシュ等で行ったように、国営肥料工場の民営化によって、肥料を安価に提供することである。バングラデシュでは15年掛けて自給に至った。アルバニアやコソボでも成功した。アフリカで出来ない筈はない。IFDCの技術協力を得られれば、アフリカの肥料の問題は、ずっと改善されるだろう。
 

C.ザンビアで硫安工場立て直しに失敗した例がある。アフリカの国々は、市場が小さい。複数の国で共同運営ということになっても、それはそれで大変だ。IFDCのやり方をそのまま導入するのは難しいのではないか。
 

C.先月、ザンビアに行って来た。工場自体は動いているようだが、よそから買った方が安いという現実がある。
 

Q.アジアとは稲に対する感覚が違うと思うのだが、その辺りをどう考えているか。

A.その通り。アフリカで稲というのは雑草のひとつ。おそるおそるやっている。しかしながら、西アフリカの都市を中心にコメの消費は増えている。
 

Q.種の選別も行っているようだが。

A.行っている。個人単位で行うものと、コミュニティ単位で行うものがある(註2)。
 

Q.CGIARとは? 活動の内容は公開されているのか。

A.Consultative Group on International Agricultural Research(国際農業研究協議グループ)のこと。WARDAは1986年、CGIARの傘下に入った。世界の16機関の連合である。活動の内容は全部公開されている。
 

Q.ネリカ米をどこまでやれば、「アフリカの食料安全保障」になるのか。元々の主食とは別の「コメ」を導入するのだから、外部の人間がどこまでやるのが真っ当と考えるか。 A.百論百出。アフリカでは、まずコメを食べている地域に導入する。
 

C.先進国は食料が余っている。そことの兼ね合いも常に見ていく必要がある。
 

C.ネリカ米については、どこのホームページを開いても、同じ内容が書いてあり、情報源がひとつなのかと思った。
 

C.ヨハネスブルクのサミットで行われたネリカ米のデモンストレーションについて話を聞きます。

C.ウブンツ(註3)のJapan Pavillionで、ネリカ米の紹介・試食があった。短粒種で少し粘りがある。不味いコメではない。一緒に付いていたカレーは美味しかった。試験場の苦労話等は、それなりに面白いものだったし、ネリカ米を栽培している農家からは、「農業は期間の長いものなので、この先のことは未だわからない。」というコメントがあった。スポンサー(国連・世銀・日本政府)の意見は、絶賛ばかりで些か驚いた。別の会場で、広報担当者に「ネリカ米の将来について少し懸念がある。」と言ったら、もの凄い目つきで睨まれた。
 

Q.ネリカ米はGM(遺伝子組み替え)か。

A.GMではない。
 

Q.援助とは、ドナーが何かを特定の地域に持ち込むやり方である。WARDAの近くにも失敗したサイトが拡がっている。現地のコメを食べない地域に、別のコメを持ち込むのは危険ではないか。

A.ギニアでは、コメを食べている。導入地域の選定は慎重に行っている。
 

C.農家は現実的だ。カンボジアでは、三千から四千種類の米がある。コメ不足の時は、収量が多くて安全なものを選ぶが、コメの余剰が予測される時には、一番味の良いコメを選ぶ。ネリカ米も市場出荷して競争に勝てるなら、現実的に商品作物としてやっていけるだろうが、実際にはアフリカのコメをアフリカ人が食べていない。
 

Q.「緑の革命」がもたらした悪影響というのは考慮されないのか。

A.食料増産は重要である。その上での話ではないか。
 

Q.貧富の格差が拡がるのではないか。

A.ある期間は、やむを得ない。ある程度条件の揃った農家の収量が上がり、全体の収量が上がる。その後、低収量であった農家も続く。このことは避けられないのではないか。アジアでも、5〜10年のズレは合ったが、長期的に見れば問題ではない。
 

C.2KRの活用が提案されているが、2KR自身は「廃止も含めての前提で見直す」ことになっているので、活用は難しいのではないか。
 

Q.ネリカ米の栽培時期はいつなのか。

A.6月に播種。8月末に稲刈り。ネリカ米以外は10月に稲刈りをするのに比べ、極めて短期間で収穫に至る。しかも乾期に入る前に、ネリカ米は収穫ができので、危険も少ない。
 

Q.環境に対する悪影響が心配だが、どう考えているか。

A.環境破壊については、明らかに進むと思われる。首都からネリカ米のプロジェクトサイトまで飛行機で飛んだが、上空からは点々と荒れた畑が続いていた。1年目に収穫をして、2年目以降、放ったらかしにした結果である。ネリカ米による自給が先か、環境破壊が先か、かなりせっぱ詰まっている。余程注意しないと、今の陸稲ネリカ米だけでは危ない。今研究中の天水低地用、灌漑水田用のネリカ米が2〜3年内に開発されると、この問題はずっと助かる。
 

註1:IFDC(国際肥料開発センター)

註2:「農民参加型品種選別」(PVS:Participatory Varietal Selection)と「コミュニティーによる種子生産システム」(CBSS:Community Based Seed Production System)を指す。多様なニーズに適応した品種が選別され、遺伝資源の多様性維持を考慮するならば、この両者の組み合わせが重要である。

註3:ヨハネスブルク市内の地名。WSSDの会議場であるSandton地区から車で10分程度。政府、国際機関、企業による展示やサイドイベントが行われた。

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