AJFの活動

プロサバンナ事業マスタープランに関する公聴会やり直しの緊急要請


外務大臣 岸田文雄様
独立行政法人 国際協力機構(JICA) 理事長 田中明彦様


プロサバンナ事業マスタープランに関する公聴会やり直しの緊急要請


 平素から、国際協力におけるNGOの活動と役割にご理解とご協力をお示し下さり、誠にありがとうございます。先般、4月18日付で、緊急声明「プロサバンナ事業でのマスタープラン初稿の開示と対話プロセスに関する抗議と要請」をお送りいたしましたが、本状はその後の現地における公聴会の状況を踏まえ、要請するものです。

 標記、「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム(以下、プロサバンナ事業)」のマスタープラン素案(初稿)に関し、モザンビーク農業省から3月31日付で報道発表が出されています。同発表に基づき、マスタープラン素案に関する農村部での「公聴会」が、ナンプーラ州14カ所、ニアサ州13カ所、ザンベジア州4カ所にて、4月20日?29日の日程で開催されました。

 日本政府は、2013年2月からプロサバンナ事業の目的を「小農支援」と表明するようになり、岸田大臣ならびに田中理事長におかれましては、昨年5月12日の参議院決算委員会にて、プロサバンナ事業の進め方において「丁寧な作業」と「丁寧な対話」を実施するとご答弁されました。しかしながら、実際にこれらの「公聴会」に参加したモザンビークの市民社会(農民組織・市民社会組織・研究者を含む)と日本の市民社会のメンバーからは、以下の諸点からみて、「公聴会」の要件をとても満たし得ない、逸脱したものであったとの報告を受けています。もし、このままマスタープランを最終化させることになれば、深刻な事態が発生しかねない状況のため、公聴会のやり直しを緊急に要請いたします。

(1)「公聴会」を知らなかった対象郡の農民

 「公聴会」開催に関する農業省の発表は開始日の3週間前であっただけでなく、農民組織や市民社会組織などの関係機関への案内が遅れ、報道機関を通じた広報に頼ったため、「公聴会」が開催された多くの郡で、農村住民は「公聴会」の開催の事実すら知りませんでした。小規模農民(以下、小農)の最大の連合組織であるUNAC(全国農民連合)や州農民連合においても、新聞記事を読んで、初めて「公聴会」について知ったとのことでした。郡行政府を通じて、「何か集まりがある」と聞いた農民も、それがプロサバンナ事業のマスタープランに関するものであると正しく認識していた農民は少なく、ましてやマスタープランを事前に入手し読んだ上で参加することができた農民は皆無でした。

 つまり、情報へのアクセスが難しい農村部の小農が、「公聴会」の主旨や目的、またそのための事前情報などをしっかりと把握することがほとんど不可能なまま、農村部での「公聴会」は実施されました。

 加えて、マスタープラン素案は200頁を超える大部のものであり、それも郡の中心地の行政府に閲覧用に置いてあるか、インターネットにアクセスしてダウンロードするしかなく、農民らが事前に内容を把握することは不可能でした。

(2)実質的な農民排除と圧倒的な政府・与党関係者の参加率

 多くの「公聴会」の参加者は、政府関係者、政府機関の公務員(学校教員など)、与党フレリモ下部組織の女性組織(OMM)・青年組織(OJM)および地区書記長、政府に認定され制服が供与される「伝統的首長」、そして政府と繋がりの強いビジネスマンが大半を占め、小農の参加は極めて限定的でした(1)。ある「公聴会」では、UNACに加盟する郡農民連合に対し、郡行政官から「代表者5名のみの参加」という人数制限が設けられたケースもありました。

 4月20日の参議院決算委員会にて、田中理事長は「登録すれば誰でも参加できる」「ラジオでも告知した」とご答弁されましたが、交通手段も限られ、主旨や内容もよく分からない「公聴会」に交通費を払って出向き、自分の名前を行政機関に登録する心理的圧迫を越えて参加する農民は、現在のモザンビーク北部農村の社会政治経済環境ではほとんどあり得ない想定です(2)

 さらに、いくつかの「公聴会」(ナンプーラ州及びニアサ州)では、事前通告なしに、開始時間が繰り上げられたり、開催日が変更になり、農民が会場まで足を運んだのに参加できなかったケースがありました(3)。より深刻なケースでは、「場所が変更になった」と行政官に言われて移動したら、「公聴会」は元の場所で開催されていたなど、悪質な参加妨害もあったとの報告も受けています。

(3)疑問や異論を封じ込める「公聴会」

 ほとんどの「公聴会」において、プロサバンナ事業や「公聴会」のプロセス、そしてマスタープランの中身について疑問や異論を口にした参加者に対しては、農業省や地元行政府の関係者が、「カネをもらった外部者に操られた哀れな農民」と言って農民の声に耳を傾けようとせず、むしろその声を押さえ込もうとしたことが報告されています。また、多くの「公聴会」で、プロサバンナ関係者や地元行政関係者によってUNACやその加盟団体についての誹謗中傷が繰り返される一方、UNAC関係者らが反論しようとすると「外部からカネをもらって儲けている」と断定され、事業内容についての議論ができない場面も散見されました。

 これは、疑問を唱えた農民、UNACに対してだけでなく、地元教会関係者やモザンビーク市民社会関係者、研究者に対しても同様で、「外部からカネをもらって批判している」との事実無根の中傷に、参加者の多くが衝撃を受けています。

 また、ナンプーラ州での「公聴会」の中には、武器を携帯した警察署長が参加するなど、参加者に恐怖を抱かせたものがあったとの報告も受けています。

 以上のような手法は、モザンビークが1994年の民主化後に積み重ねてきた「公聴会」の水準からも大きく逸脱しており、多様な農民や市民から意見を聞き、その結果をマスタープランに反映させる目的で開かれたものとは理解されていません。異論があろうともプロサバンナ事業を推し進めるための「既成事実化」あるいは「政府与党のプロパガンダだ」との声が、現地で広がっています。

(4)マスタープランの内容の理解を促す努力の欠如

 既に良く知られているようにモザンビーク農村部の識字率は極めて低く、マスタープランに書かれた複雑な内容を理解するためには、十分な時間と丁寧なプロセスが不可欠です。そのためには、農民を代表して農業政策の策定や実施に尽力してきたUNACをはじめとする農民組織連合、市民社会組織の助けを借りなくてはなりませんでした。事業の最大の裨益者である小農が「公聴会」に「意味のある参加」をするためには、まずは、これらの組織に素案の全文を含めた関連資料を送り、彼らがその内容をしっかり読解できるよう十分な時間を与えることが必要で、その上で、これらの組織が農民自身の理解が深まるようにワークショップ等を開催し、そこで農民らの疑問点などが整理され、意見がまとめられるというプロセスが不可欠です。

 モザンビークでは、まさにこのようなプロセスを経て土地法やPEDSA(農業セクター開発戦略)等の農民に重大な影響を及ぼす政策や計画は策定されてきました。このプロセスに最も貢献してきたのが、UNACやその傘下の地方組織であり、UNACほどに、この点での実績と経験を有する連合組織はありません。しかしながら、今回UNACへの事前協議がなかったばかりか、情報共有さえなく、かつUNACの参加を阻むような行為すら行われ、多くの「公聴会」でUNAC批判が繰り広げられたことは大変憂慮すべき事態です。

 その一方で、ニアサ州マジュネ郡 では、プロサバンナ担当官らによるプロサバンナを賛美する寸劇が披露されたそうです 。

 本来、「公聴会」とは、多様なステークホルダーから批判的なものも含めて多様な意見を聞き、それを反映させることで、事業をより妥当性の高いものとし、環境や社会に対する負の影響を最小限にし、裨益住民に対する効果をより高く発現させるために行うものです。しかし、今回の「公聴会」は、上記のとおり、モザンビークの基準に照らしても、公聴会としての要件を満たしたものとは言い難く、戦後モザンビークが進めてきた民主的で公平な統治と言論の自由に基づく「対話」の蓄積を踏みにじるものです。

 この実態については、主要ドナーである日本政府は当然把握しているものと思います。政府開発援助(ODA)を支える私たち納税者としても、もしこのような事態を看過したまま「農民の賛同を得た」としてプロサバンナ事業を進めるとしたら、それは許し難いことです。昨年国会において「丁寧な作業」と「丁寧な対話」を行うことが岸田大臣ならびに田中理事長によって約束されましたが、実施された「公聴会」は、これらの約束とは乖離したものとなりました。小農が裨益対象であるなら、彼らの意味ある参加を実現することが不可欠であると考えます。

 大臣並びに理事長におかれましては、早急にマスタープラン素案の3言語版すべてを広く開示するとともに、農民や市民社会らがその検討と分析を行うために必要な時間を十分に取った上で、「公聴会」の名に相応しい対話をやり直すことを強く要請いたします。

2015年5月1日

(特活)日本国際ボランティアセンター、(特活)アフリカ日本協議会、(特活)オックスファム・ジャパン、ATTAC Japan、モザンビークの開発を考える市民の会、No! to Land Grab, Japan

(1) 一例として、ナンプーラ州リバウエ郡で開催された公聴会の参加者は、プロサバンナ関係者5名、郡行政関係者10名、教員3名、ビジネスマン5名、ホテル従業員2名、呪術師10名、伝統首長2名、与党青年組織5名によって構成され、小農の参加者は6名でした。(市民社会3名、ブラジル人研究者1名を除く)。 > 本文へ

(2) 公聴会が始まってみると、「事前登録なしでも参加可能」と変更がされていましたが、その変更を知っている人はほとんどいませんでした。 > 本文へ

(3) この結果、日本の市民社会のメンバーは、予定した9つの「公聴会」の内、2つの参加が不可能となりました。なお、事前登録を行っていたモザンビーク市民社会も変更の連絡を受けず、不参加を余儀なくされています。 > 本文へ

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