アフリカ熱帯林の現状と日本との関係

絶滅危惧種のゾウの研究者ら、中央アフリカ共和国から避難


DISCOVERの記事を、AJFが翻訳・紹介するものです。
引用する際には、原文にあたってください。
Researcher Studying Endangered Elephants Flees Central African Republic

絶滅危惧種のゾウの研究者ら、中央アフリカ共和国から避難

DISCOVER 2013年6月10日

4月下旬の夜、サンガ河に沿ってモーター付きの小型ボート3艘が近づいたため、国境警備隊は、反政府勢力の前進を警戒し空に向けて発砲した。

しかしながらボートに乗っていたのは、中央アフリカ共和国を覆った血なまぐさい暴動から逃れてきた非武装の外国人たちであった。避難者の中には、ゾウの研究者であるAndrea Turkalo氏がいた。彼女は、森林内の居留地から避難する際に引っ掴んできた25,000ドルの現金と20年以上に及ぶデータを収めた6つのハードディスクドライブを運んでいた。

Turkalo氏は、Wildlife Conservation Societyに属する現場の生物学者であり、世界の主要な森林ゾウ(マルミミゾウ)の専門家の一人である。1990年以来彼女は、より大きくより曲がった牙を持ちサバンナに棲息しているアフリカゾウとは異なる種であると考えられている、掴みどころのないゾウを、中央アフリカ共和国の熱帯林の南西部に位置する、ザンガ・バイとして知られる湿地帯にて観察してきた。しかしながら、彼女のライフ・ワークは今や、マルミミゾウ自身の運命と同じく、不安定な状況にある。

研究から立ち去る

中央アフリカ共和国北部に拠点を置く、Selekaとして知られる反乱グループの連合体が、フランソワ・ボジゼ大統領の政府に対して蜂起した昨年11月に、問題は始まった。Turkalo氏は当時歯科治療をするために米国にいたが、12月下旬に中央アフリカ共和国に戻った。ちょうどその時、米国大使館の職員たちは首都バンギから撤退したところだった。しかし、Turkalo氏は可能な限り長くザンガ・バイに留まることを決めた。

Selekaが道中で市民を虐殺しながら南に向かって進軍してくる中、彼女は緊迫した3カ月をバヤンガ村の近くの彼女の住まいで送った。

3月24日、反乱グループはバンギを陥落させ、Turkalo氏は彼らが彼女の活動地域に向かっているとの知らせを受けた。彼女は近くのザンガ・サンガ国立公園本部にいるWorld Wildlife Federationのスタッフと相談し、そこを離れる時期であることを合意した。Turkalo氏は、南方50kmのコンゴ国境に向けて河を下る十数人の人々に加わった。

午後10時頃に川岸の国境検問所に近づくと、彼らは怒声と連続射撃の音を聞いた。

Turkalo氏とWWFの技術ディレクター、Anna Feistnerは外へ出て、ライフルとレボルバーで脅してくる酔った警備員に近づいた。

「私たちは落ち着いて彼に話し始めました。」、「私は、「すみません、あなた方が見えませんでした、あなた方のところに灯りがなかったので」と言いました。」と、Turkalo氏は言う。酔った警備員は、彼女の持ち物を調べると脅し、彼女は現金を見つけられて押収されてしまうのではないか、と恐れた。しかし、他の警備員の2人の仲間は、以前から彼女を見知っていたため、彼らは謝罪し、それ以上問題を起こさず、彼女らのグループを見送った。

Turkalo氏は真夜中頃、コンゴ共和国のボマサに辿り着き、3週間そこにうずくまるようにして滞在した。Selekaがバヤンガから退いたことを聞いて、彼女は、不在中に略奪され空になった住まいに戻り、ゾウの観察の仕事に戻った。しかしながら3日後、反乱グループが戻ってきているとの知らせを聞き、彼女は再びボマサへ避難した。そこから、彼女は子供時代を過ごした故郷のマサチューセッツへ戻った。

ザンガ・バイの苦境

それ以来Turkalo氏は、ザンガ・バイ周辺の人々とゾウの苦境に対しての国際的な注意を引こうとしている。彼女は帰国後すぐ、米国務省の当局者たちにこの状況の説明をするべくワシントンへ行った。中央アフリカ共和国や近隣の国々でのみで見られるマルミミゾウは、急増するアジアの違法な象牙市場に供給している組織的な密猟者たちに、長い間狙われ続けてきた。

PLOS ONE誌上に掲載された近年の研究によれば、マルミミゾウの数は2002年から2011年の間に62%減少し、その数は100,000頭であるという。(アフリカゾウも緩やかにではあるが減少しており、現在400,000頭である。)そして中央アフリカ共和国の混沌は、以前は保護がなされていた地域にも危険を及ぼすようになった。

5月8日、AK-47で武装した密猟者の集団が、ザンガ・バイにて26頭のゾウ(4頭の子ゾウ含む)を虐殺した。「彼らのうちの何人かは、間違いなく私が知っている人たちです。」と、現地の連絡員からのメールでゾウの殺害について知ったTurkalo氏は述べた。現地の警備員らは、前もって反乱者らによって武装解除されており、殺戮を止めることが出来なかった。野生生物保護当局者らは、密猟者らが象牙を切り取った後村人がゾウの死体を食肉用に解体した、と報告した。Turkalo氏は悲しそうに、「(地元の人々にとっては)宴会だった。」と語る。

避難中でも、Turkalo氏は、コーネル大学と長年共同で行っているElephant Listening Projectを含む科学的調査を続けることを決めた。 1999年以来、マルミミゾウの語彙集を開発するという最終目標を持って、彼女はバイの周囲に張り巡らしたマイクを使って研究対象の複雑な発声を録音している。この夏、彼女は昔のようにELPの研究者と共働し、自身の論文を執筆しながら大学で数週間を過ごす。しかしながら、その後の計画は不確かである。

Turkalo氏は、中央アフリカ共和国で、過去2件のクーデターを目撃しており、簡単には怖気付かないが、武装した反乱グループが住まいの一部に侵入したのは今回が初めてだ。Turkalo氏がボマサにいた間、バヤンガの1人の村人が3月にSelekaによって殺された。彼女は衛星電話を通じて、公園当局者からその殺害のことを聞いた。

「彼は何かSelekaが気に入らないことを言い、皆の目の前で銃殺されました。」と、彼女は言う。伝えられるところによれば、反乱グループは何百人もの女性をレイプしているとのことから、彼女は森林内の孤立した住まいにいることの危険性を認識している。

現在の所は、Turkalo氏は様子を見て待っている状態である。「状況が現在よりもっと安全であると感じられるまで、戻るつもりはありません。」と、彼女は言う。「けれども、きっと戻ります。」


独立行政法人環境再生保全機構より平成24年度地球環境基金助成金を受けて実施した「アフリカの熱帯林の環境保全と日本をつなぐ生物多様性保全の教育・普及活動」のフォローアップの一環としてこのページを作成し、公開しています。

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