アフリカ熱帯林の現状と日本との関係

森のゾウに忍び寄る全滅の危機


Plos Oneの記事を、AJFが翻訳・紹介するものです。
引用する際には、原文にあたってください。
Plos One

森のゾウに忍び寄る全滅の危機

Plos One 2013年3月4日

森林ゾウについて、これまでまとめられたものとしては最も多くのデータセットで構成されたPlos One 研究によれば、 過去10年間にゾウの棲息数は60%以上も失われていることが明らかになった。

カメルーン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、ガボン、コンゴ共和国において、森林ゾウの棲息地の減少も判明。

保護に取り組む科学者たちは、種の保護のため早急な取り組みを訴える

バンコクで開かれたCITES会議でゾウが議題に取り上げられる(3月3日〜14日)

ニューヨーク(2013年3月4日5時配布開始) アフリカの森林ゾウ密猟によって絶滅の危機迫る。オンライン・ジャーナルPLOS ONE に発表された研究によると、 アフリカ中央部全域で過去10年間に、象牙採取のために、62%のゾウが殺された。

『この分析結果は、まさに保護活動家たちが恐れていた通りのことが起こったことを裏付けている。 この傾向が続けば、早ければ今後10年で森林ゾウは全滅するだろう』と、この分野の先導的著者の一人、 Wildlife Conservation Society (WCS)のDr. Samantha Strindberg は語った。

別のWCSの一人、 Dr. Fiona Maisels 曰く『種の保護のためには、ゾウが棲息する国ー象牙密輸入のルートに沿って最終目的地の極東までの道ーの間での、連結した世界規模の努力が必要です。ゾウの絶滅を防ぐのに、我々に遺されている時間はわずかしかないのです。』

中央アフリカゾウの情報量としては史上最大規模のデータに基づく研究が、密猟や象牙密輸入を含む野生動物貿易問題を話しあうために178カ国がバンコクに集まるその時に明らかにされた。

アフリカ中央部の森林ゾウに関する史上最大の研究は、2002年から2011年までの間に60人以上の科学者が行った研究成果と、5カ国(カメルーン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、ガボン、コンゴ共和国)のゾウの調査のために、各国の保護職員が91600人日もかけ、13000キロ(8000マイル以上)を歩き、11000本以上の分析のためのサンプルを集積した計り知れない努力によるものである。

研究論文には、10年前にはアフリカ森林ゾウが安全に暮らせていた地域の1/3が、現在では彼らにとって危険な場所になってしまったことが記されていた。

共著者であるLukuru Foundation のDr. John Hart は、『歴史的に、2万平方キロメートル以上の広大な地域の森にゾウは棲息してきたが、現在ではゾウの棲息地は1/4に減少している。森林は同じように覆っているのだがゾウがいなくなってしまったことは、問題は生息地が衰退したということではないことを示している。ほとんど全面的に密猟の結果だ。』最近のコンゴ民主共和国での調査によれば、この地域のゾウの最後の砦と考えられていたオカピ動物保護区(Okapi Faunal Reserve)内で、大幅なゾウの棲息数の減少がみられた。

調査結果から明らかになったことは、人口密度が高いところ、道路などのインフラ整備密度が高いところ、猟の頻度が高いところ、そして腐敗や法的措置施行努力がないといった指標に示される統治体制が弱いところで、森林ゾウは急速に希少になってきていることだ。 アフリカサバナゾウと違い、アフリカ森林ゾウのサイズはわずかながら小さく、多くの人によって別種のゾウだと考えられている。彼らは地球にとって必要不可欠な炭素吸収源である熱帯林の生物多様性の持続に重要な役割を担っている。

ガボンの国立公園サービスの会長Lee White CBE教授曰く、『ゾウがいない熱帯林は不毛の土地だ。ゾウは土地を蘇らせ、踏み分け道を作り、他の動物も利用することのできる森の空閑地を開き、またさまざまな熱帯樹木の種を分散させる。ゾウは巨視的に見た時、熱帯森の園丁のような存在なのだ。森を揺るがす彼らの呼び声は、太古の自然の偉大さを思いおこさせる。もし我々がこの状況をすぐに変化させなければ、アフリカゾウの将来は運命づけられてしまう。この新しい研究結果は状況がいかにめまぐるしく変わったかをありありと見せつける。この象徴的な種が生き残れるかどうかは、これからの10年の我々の行動にかかっている。』

CITES-MIKE プログラムによって実現された研究は、2006年以降のアフリカ全域での密猟の増加は、極東の消費需要の流行と非常に強く結びついていること、また密猟の多い少ないは国レベルの政治と地域レベルの貧困と非常に密接な関係があることを示している。これは、以前は安全だとされていた地域でゾウの捕殺数が上昇していることから見てとれる。

共著者のガボン国立公園サービスのMr. Rostand Aba’a およびWWFガボンの Mr. Marc Ella Akouは『我々は過去10年の間、ガボンの森の調査を行っており、ここ数年ゾウの死骸の数が増加している』と語る。

今月初め、ガボン政府は2004年から2012年までにMinkebe国立公園でおよそ11000頭のゾウが殺されたことを発表した。以前はここはアフリカ最大のゾウの棲息する森だったのだ。

ガボンのAli Bongo Ondimba大統領は、『ブラックマーケットが引き起こしたこの地域での象牙の大幅の値上がりのせいで、ガボンのゾウは苦境に立たされている。これらの問題と戦うためにも、国際共同体に協力してもらえるよう呼びかける。もし我々が素早く保護しない場合、アフリカゾウは全滅するだろう。』

Save the Elephants に所属するコロラド州立大学のDr. George Wittemyer は、『この研究は、もっともカリスマ的で賢い種の一つが急速に消滅していることの疑いの余地がないことを証明している。際立った消費が理由で起こる種の消滅をせき止めるよう、立ち上がらなければならない。』

ゾウを救うために、効率的で早急な、そしてさまざまなレベルにおける行動が絶対である。思い切った財政支援の増加と一番効率的な保護政策に集中することが、現存するゾウが今後さらに大幅に失なわれることを避けることにつながる。

Max Planck InstituteのDr. Stephen Blake は、『森林ゾウに必要なことが二つある。彼らが普通に歩き回るだけの十分なスペースと、保護だ。多くは森林や他の自然資源の開発に伴う保護されていない道路がこれまで手つかずだった自然の奥深くへ入り込み、森林ゾウにとっての死の銃声を響かせている。森林のゾウが生き残るためには、道路が入り込まない広い地域を残さねばならないし、現存する道路に関しては効果的な自然保護計画を立てなければならない。』

ZSLの西北プログラムマネージャー Mr Chris Ransom は、『この研究が明らかにしたことそしてここ2、3年の東アジア・東南アジアでみられる莫大な象牙の差し押さえが明らかにしていることは、我々が今すぐ行動におこす必要があることを明確にしている。』

慢性的な腐敗を減少させ不十分な法的措置施行を改善することは、密猟や貿易を取り締まる上でも非常に重要である。それに加え、特にアジアでの不法象牙の消費国や中継国による野生動物の商品の輸入や販売の取り締まりを、強化することも極めて重要である。国際社会と共に、消費国は公的教育に大きな資金を投入し、象牙貿易の様々な問題を消費者に教る必要がある。課題はとてもたいへん大きいが、中国も他のアジアの国々も、強い政治的意思による迅速で巧みな行動や管理の改正が可能なことを、2003年の SARS 危機の際に証明している。ゾウの生き残りのためには、象牙需要の抑制することに注目した同じような行動が解決の鍵である。

『中央アフリカにおける森林ゾウの荒廃した減少』の著者は Fiona Maisels, Samantha Strindberg, Stephen Blake, George Wittemyer, John Hart, Elizabeth A. Williamson, Rostand Aba’a, Gaspard Abitsi, Ruffin D. Ambahe, Fidel Amsini, Parfait C. Bakabana, Thurston Cleveland Hicks, Rosine E. Bayogo, Martha Bechem, Rene L. Beyers, Anicet N. Bezangoye, Patrick Boundja, Nicholas Bout, Marc Ella Akou, Lambert Bene Bene, Bernard Fosso, Elizabeth Greengrass, Falk Grossmann, Clement Ikamba-Nkulu, Omari Ilambu, Bila-Isia Inogwabini, Fortune Iyenguet, Franck Kiminou, Max Kokangoye, Deo Kujirakwinja, Stephanie Latour, Innocent Liengola, Quevain Mackaya, Jacob Madidi, Bola Madzoke, Calixte Makoumbou, Guy-Aime Malanda, Richard Malonga, Olivier Mbani, Valentin A. Mbenzo, Edgar Ambassa, Albert Ekinde, Yves Mihindou, Bethan J. Morgan, Prosper Motsaba, Gabin Moukala, Anselme Mounguengui, Brice S. Mowawa, Christian Ndzai, Stuart Nixon, Pele Nkumu, Fabian Nzolani, Lilian Pintea, Andrew Plumptre, Hugo Rainey, Bruno de Semboli, Adeline Serckx, Emma Stokes, Andrea Turkalo, Hilde Vanleeuwe, Ashley Vosper and Ymke Warren.

中央アフリカで保護のための活動をしている団体は Wildlife Conservation Society, World Wide Fund for Nature, Programme de Conservation et Utilisation Rationale des Ecosystemes Forestiers en Afrique Centrale (ECOFAC), Dian Fossey Gorilla Foundation International, the Jane Goodall Institute, Lukuru Foundation, Zoological Society of London, Fauna and Flora International, Max Planck Institute, San Diego Zoo, African Wildlife Foundation, University of Liege and University of Stirling.

財政的支援は Nancy Abraham, the African Wildlife Foundation, Beneficia Foundation, Busch Gardens, CITES-MIKE, Columbus Zoo, Conservation International, Daniel K. Thorne Foundation, Diane Fossey Gorilla Foundation International, Especes Phares (European Union), Ecosystemes Forestiers d’Afrique Centrale (ECOFAC), Fauna and Flora International, Frankfurt Zoological Society, IUCN Netherlands, John D. and Catherine T. MacArthur Foundation, KFW, LifeWeb (Spain), National Fund for Scientific Research (FNRS, Belgium), Offield Family Foundation, Operation Loango, Prince Bernhard Wildlife Fund, RAPAC, The Arcus Foundation, The Aspinall Foundation, The Born Free Foundation, The Institute for Biodiversity and Ecosystem Dynamics at The University of Amsterdam, the Jane Goodall Institute, The Liz Claiborne and Art Ortenberg Foundation, The Lucie Burgers Foundation, The Wasmoeth Wildlife Foundation and Karl Ammann, Total Gabon, UNESCO, United States Agency for International Development (USAID CARPE), USFWS Great Ape Conservation Fund, USFWS African Elephant Conservation Fund, Wildlife Conservation Society, World Wildlife Fund and the Zoological Society of London
 


独立行政法人環境再生保全機構より平成24年度地球環境基金助成金を受けて実施した「アフリカの熱帯林の環境保全と日本をつなぐ生物多様性保全の教育・普及活動」のフォローアップの一環としてこのページを作成し、公開しています。

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