アフリカ熱帯林の現状と日本との関係

科学者たちは語る:私たちは、マルミミゾウが独立した種であることの科学的根拠が無視されていることを“強く非難する”


ShanghaiDaily.com「Scientists: we are 'condemning' forest elephants by ignoring evidence 」を、AJFが翻訳・紹介するものです。

科学者たちは語る:私たちは、マルミミゾウが独立した種であることの科学的根拠が無視されていることを“強く非難する”


2015年7月23日 The guardian  

2つの種が異なる種だと思いますか?例えばあなたがある鳥の2つの集団を調査しているとします。一方はサバンナに、もう一方は森林に生息しています。サバンナの集団はバッタを食べますが、森林に住む集団は甲虫を食べます。サバンナの鳥はカーブした嘴を持ち、大きな体をしています;森林の鳥の方は真っ直ぐな嘴を持ち、より小さい体をしています。このことはひとつではなく2つの種であるとあなたが判断するのに十分ですか?おそらく。でも遺伝子を調べたらいかがでしょうか。いやはやこれは驚いた、DNAはその鳥達が600万年前までに分かれていたことを教えてくれ、2つの種だということが簡単にわかります。

さあ、ではもし私たちが鳥でなくゾウについて話しているとしましょう。アフリカゾウです。突然、ものごとは複雑になります。本当に複雑です。そして政治的で、議論は白熱しています。

「私の知る限りでは、今や非常にたくさんあるすべての科学的証拠は、2種の[アフリカゾウ]の存在を支持するもので、それらがひとつの種だという証拠はひとつもありません。」とPuget Sound 協会の研究者であり、動物生命科学年次報告(Annual Review of Animal Biosciences)に発表された2種であると主張する最近の研究論文の共同著者であるNick Georgiadis氏は言います。「同一の種であることを支持する客観的な証拠はひとつもありません。いくつかの主観的な思い込みが独断的な主張になったものがあるだけです。

しかし政府と一般市民は未だにアフリカゾウがただひとつの種だという説を容認していて、それは主として世界一大きな陸上動物であるサバンナゾウに代表されています。IUCN(国際自然保護連合) やCITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)のような最も大きな野生生物保全の主要組織でさえも、単一の種であるという認識です。  

しかしGeorgiadis氏の論証そして相当数の形態学的(身体的)および遺伝学的な証拠は、サバンナゾウ(Loxodonta africana) と、長い間無視され、より絶滅の危機にあるマルミミゾウ(Loxodonta cyclotis)とが疑いなく別の種であることを示しています。

アフリカの中央部および西部の熱帯林で見つかったマルミミゾウは、サバンナの彼らの類似した仲間より体が小さく、真っ直ぐな牙を持っています。彼らはまた、サバンナゾウより小さい家族集団で暮らし、手に入る時期は果実に強い嗜好を示すといった非常に多様な食性を持っています。密猟者たちはこの10年間で両方の集団を殺してきましたが、マルミミゾウはより激しくターゲットにされてきました。科学者たちによると密猟者たちはたった12年で65%の地球上のマルミミゾウを殺してしまいました。

「少なくとも20-30万頭のマルミミゾウが2002年から2013年の間に消えてしまいました。少なくとも1日に60頭、または20分に1頭といった調子で、昼夜の区別なくです。」と2014年の野生生物保全協会(WCS) のマルミミゾウ保全研究のリーダーであるFiona Maisels氏は言います。「象牙市場に出すための小さな宝飾品を作るために、あなたが朝食を食べ終えるまでに、また1頭のゾウが殺されています。」

しかし今現在でさえも、より有名なサバンナゾウに関しては保全の取り組みは大いにされてきています。最近では、Great Elephant Surveyの名で知られている、アフリカ大陸のサバンナゾウの個体群を調査する大規模な取り組みが進行中です。しかし、マルミミゾウを重点的に扱う、似たような保全のための大規模な取り組みは行われていません。生息している熱帯林という環境条件で、マルミミゾウの調査や研究ははるかに難しいのです。しかし彼らは保全の専門家達がこれらの動物を単に別種とみなさないという現実からもまた、あおりを受けているようです。

「2つの種を識別しないことによって…専門機関はアフリカのマルミミゾウに絶滅を強いていることになるでしょう」とイリノイ大学のthe Carl R. Woese Institute for Genomic Biology の一員で、最近の再調査の論文の主要著者であるAlfred Roca 氏は述べています。  

未だに多くの影響力をもつ専門家たちは別種であるという十分な証拠はないと言います。例えばWWFはマルミミゾウが亜種であって独立した種ではないとみなしています。

「アフリカ中央部の熱帯林のゾウと東アフリカのゾウの間には違いがありますが、1頭のゾウがどこでマルミミゾウになるかサバンナゾウになるかを定義するのは不可能です」と英国WWFの東アフリカ地域マネージャーであるAndrew McVey氏は述べ、「マルミミゾウとは何であるかの明確な定義がないのです。」と付け加えました。

“説得力のある証拠が示す複数の独立した進化上のライン”

地球上で最も親しまれている動物のひとつであるにもかかわらず、15年前まではアフリカゾウの分類学における厳密な調査はほとんどされていませんでした。1900年にドイツの動物学者のPaul Matschie氏はマルミミゾウが別個の種であることを初めて提起し、彼はそれをLoxodonta cyclotisと命名することを認められました。しかしその時、彼はアフリカゾウには30ほどの種または亜種が存在すると考えていました。1928年にポルトガルのナチュラリストであるFernando Frade氏が、サバンナゾウとマルミミゾウの2種が存在するという説を支持しました。その議論は、Georgiadis氏によると「真の証拠なしで」、1930年代まで長引きました。  

最終的に議論が下火になった時、科学者たちはアフリカゾウがたったひとつの種であるという説で落ち着いてしまいました。それから、Matschie氏の研究の100年後である2000年の論文で、ついに幾つかの確固たる証拠が発表されました。

Georgiadis氏は、「非常に初期の系統だった分析」ができるまでにとても長い時間がかかったことを「衝撃的である」と言いました。

2006年に他界したイギリスの動物学者Peter Grubb氏が率いた研究は295頭のアフリカゾウの頭蓋骨を調べました。Grubb氏と彼のチームは、体の大きさ、牙の形、頭蓋と下顎両方の違いを含む、マルミミゾウとサバンナゾウを分ける幾つかのはっきりした身体上の違いを発見しました。

しかし、Georgiadis氏によると、”obscure journal”に論文が発表されて以来、それはほとんど無視されてきました。翌年、マルミミゾウについての重大なニュースが科学者たちのコミュニティに衝撃を与えました。2001年にAlfred Roca氏と同僚たちは“サイエンス”という雑誌にゾウの遺伝子学の歴史に残る論文を発表しました。マルミミゾウとサバンナゾウの間に明らかな遺伝学的な相違を発見したのです。  

ここ数年にわたる一連の論文は、遺伝学上の発見を強固にしてきました。そして現在最適なデータが、マルミミゾウとサバンナゾウが500-600万年前に別れたことを示しているとRoca氏は言います。それは毛に覆われたマンモスがアジアゾウに分かれ、人間がチンパンジーと別れた時と同じぐらいの時期でした。

Georgiadis氏は、これらをアフリカゾウが2つの別個の種だという「説得力のある証拠が示す複数の独立した進化上のライン」と呼んでいます―そしてひとつの種だという証拠はゼロです。

しかし、時々サバンナゾウとマルミミゾウが出会って恋の花が咲くという事実をつけ加える時、状況は複雑になります。これらの禁断の情事の子は―サバンナとマルミミゾウの雑種であるが―生存するだけでなく、少なくとも幾つかのケースで繁殖します。

「ある人たちは“本当の”種は雑種を生じないという意見を固守します」とGeorgiadis氏は言います。  

雑種の問題

専門家たちは1世紀に渡ってサバンナゾウとマルミミゾウは交尾をして雑種を繁殖する能力があると認めてきました。このことは、―今でもそうですが―なぜそれほど多くの人々がマルミミゾウを認識することを拒否するのかの、ひとつの鍵になる理由でした。

「彼らは交配可能で、生存可能な子供を出産することができます。」とCITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:ワシントン条約)のMonitoring the Illegal Killing of Elephants (MIKE:ゾウ密猟監視システム)のJulian Blanc氏は言います。「コンゴ民主共和国のガランバ国立公園のような雑種でよく知られた地域があります。またサバンナゾウが森林に住んでいる例(例:ケニア山、キリマンジャロ、アバーデア地域)や、マルミミゾウがサバンナに住んでいる例(例:ガボンのサバンナ地帯)も知られています。」

しかし、遺伝学の証拠によると、雑種の交尾はほとんどがもっぱら一方向的なものです。マルミミゾウのメスだけがサバンナゾウのオスと交尾しますが、マルミミゾウのオスはめったにサバンナゾウのメスを口説くのに成功しません。研究者たちはゾウの交尾においては体が大きいことが有利に働くからだと考えています。

「野生のサバンナゾウの父親の分析はそのことを示しています。交尾の相手をめぐって競う時、体の大きさは重大な関係があり、大きなオスは小さなオスより多くの子供を繁殖します。」とGeorgiadis氏は説明します。サバンナゾウはマルミミゾウよりはるかに大きいので、同じことは、両方の種が共存する場所に、より大きな度合いで当てはまるはずです。同じ理由で、サバンナゾウのオスはほとんどの雑種のメスと交尾し、それは無限に続くでしょう。

これは、数世代にわたり、雑種の子孫において、マルミミゾウの核DNA(ゲノムの99%を構成する)が減少し、遺伝子が文字通り淘汰され、やがてすっかり消滅してしまうことを意味します。

では私たちはゾウの雑種が生まれているのをどのように知るのでしょうか?マルミミゾウの核のDNAのサインが消滅した後さえも、ミトコンドリアDNAは残ります。なぜならこのタイプのDNAはメスの系統にだけ受け継がれるからです。言い換えれば、サバンナゾウは今も数100年前のメスとの交配によって受け継がれたマルミミゾウのミトコンドリアDNAを持っているかもしれません。

「[ミトコンドリア DNA]は母から娘へ“永遠に”引き継がれます」とGeorgiadis氏は指摘します。

批判的な人々が独立種であるマルミミゾウを否定する理由として雑種のケースを指摘しますが、繁殖可能な雑種は他の種では珍しくありません。例えばオオカミやコヨーテなどのほとんどのイヌ科の動物が雑種を産むだけでなく、繁殖可能な雑種を産むことができます。マガモ属における多くのカモの種が同様です。メスのラバでさえも時に子を産む能力があります。そしておそらく、もっとも有名な雑種は私たちの過去のケースです:現生人類とネアンデルタール人が交配して繁殖した時です―繁殖力の難題はかなりあるが、完全に克服できないわけではありません。

マルミミゾウの専門家であるJohn Hart氏によると、雑種のゾウはすぐにはアフリカゾウの多くを占めることにはなりません。

「雑種は特別な地域由来のみが知られていて、2種の集団の接触は、現在のところ、森林とサバンナの境界を横切る雑種の地域の原因になっていません。これは2種は主に身体的および繁殖上別れているということを示唆します」とLukuku基金とコンゴ民主共和国のTL2プロジェクトに所属するHart氏は述べます。

しかしBlanc氏は異なった種としてマルミミゾウを定義することはひとつの課題を解決するが、新しい課題をもたらすであろうと言っています。

「特に西アフリカの大部分において森林とサバンナの境界地域のような多くの場所があり、そこでは私たちはマルミミゾウ、サバンナゾウあるいはその雑種のどれを扱っているのか全く知りません。だから分離は、種の状況についての私たちの知識と、実際の現場の彼らの状況のギャップが大きくなることを意味するでしょう。」

保全への影響はどの程度あるのか?

近年、ゾウの種を分けることに反対をする人たちは、少なくとも現場では、議論に優勢です。彼らが正しくてもそうでなくても、保全における重要人物の多くは―野生生物保全協会 (WCS) を除いて―マルミミゾウを種に格上げすることを支持していません。その上、これらの組織は、マルミミゾウを種として認識しても、保全に関してほとんど変わらないと主張する傾向があります。

「これをすることは限られた保全の価値しかありません。」とWWFのMcVey 氏は述べています。「アフリカにおけるゾウの保全はすでに非常に分裂しています。そして、それはゾウの保護において国家をさらに分裂させるだけでしょう」

しかし種を分けることを推奨する人々はこれに反対です。

「マルミミゾウに何が起こっているのかに無知でいることは彼らを正当に扱っていないということだ。」とHart氏は言う。「幾つかの個体群の主要な密猟は、森の外からほとんどさざ波も立てることなくやってきて、起こりました。」

Roca氏と彼のチームは2008年にアフリカゾウの項目が更新されたIUCNのレッドリストを指摘しました。レッドリストによると、アフリカゾウの個体数は「増加中」で、Vulnerable(絶滅危惧U類)に分類されました。しかし、もし科学者たちがマルミミゾウを別に評価していたら、彼らは減少しているので Endangered (絶滅危惧TB類)あるいはCritically Endangered(絶滅危惧IA類 )のようなVulnerableより上のカテゴリーに分類されていたに違いありません。

「それは、“トラが絶滅しつつあるという事実を埋め合わせるために、ライオンの個体数を増やした”と言っているようなものです。」とRoca氏は言います。彼はこれらの2種の大型ネコ科動物もまた、マルミミゾウとサバンナゾウが分かれたのとおよそ同時期に分かれたものであると言及しました。

さらに、アフリカはここ8年間にわたり、恐ろしい密猟の危機に直面していると同時に、未だにサバンナゾウの一大生息地があります。例えばThe Great Elephant Census は最近ボツワナ北部で129,000頭のサバンナゾウを概算し、集団は現在密猟に悩まされていません。しかしマルミミゾウの一大生息地では同等の個体数は認められません。現在ガボンには世界中のマルミミゾウの約半数が生息していると言われていますが、そこでさえもマルミミゾウの密猟が広く行われています。

種を分けるのに依然として気が進まないことの背後にある理由の一つは、アフリカゾウを全般的に守りたいという欲求であるかもしれないと、Georgidias氏は言っています。もしIUCNが2008年にサバンナゾウだけを評価していたとしたら、その時点でのその楽観的なカテゴリーは種の「CITES付属書T から降格の適用」を招き、合法的な象牙取引に道をひらいていたかもしれません。言い換えれば、保護活動家たちは、合法的な取引からサバンナゾウを守る方法として、マルミミゾウにとって厳しいカテゴリーを利用したのかもしれないのです。

しかし付属書Tへの残留は最近の象牙ブームを妨げることはほとんどありません。さらにマルミミゾウはサバンナゾウのような配慮をほとんど受けられず、その生息状況はさらに悪くなるばかりです。

「マルミミゾウとサバンナゾウとの種としての分離はそれぞれの種の保全戦略の発展を促進するはずです」とHart氏は言います。「マルミミゾウはサバンナゾウよりもはるかに絶滅の危機にあり、あまりよく知られていません。」

合衆国の保全グループである、the Centre for Biological Diversity (CBD:生物多様性センター)は、問題を最前線へ押し出す試みをしています。CBDはマルミミゾウが個別の種であることを考慮するべきであると主張する、110ページの嘆願書を合衆国漁業野生生物局に送りました。グループはまた、合衆国の歴史に残るような、絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律で彼らに特別の保護を与えるために、すべてのアフリカゾウを絶滅危惧種に格上げするよう、政府に要求しました。アメリカ合衆国は、通例、中国に続く2番目の象牙の密輸国として挙げられてきました。

「今やアフリカゾウがふたつの別個の種だと考えることに疑問の余地はありません、だから彼らの個別のニーズに従って管理されるべきです」とCBDの科学者であるTara Easter氏は言います。「マルミミゾウとサバンナゾウの両方とも急速にいなくなりつつあります、だから私たちは彼らに強固な保護を与えなければならないのです」

このことは皆が同意することです:アフリカのゾウはさらなる助けを必要としています。

「私たちは論争をやめて、そのかわりにマルミミゾウとサバンナゾウの両者を保全すること、そして生息地域と個体数が減少する根本的な問題に取り組むことにフォーカスするべきだと思います」とBlanc氏は述べています。

しかしマルミミゾウの支持者たちはすぐに問題を棚上げする気はありません、特に形態学的および遺伝学的データの両方の影響は彼らの味方であると彼らは言います。これらの研究者たちにとって、それは彼らの最終目標のための証拠に基づいた科学の道に乗っ取っています。

「2つの種の分離はゾウの遺伝的な歴史と将来のゾウの保全両方の認識を進展させるためのツールになるべきです。」とHart氏は言います。

おそらくマルミミゾウが独立した種だと認識することは、彼らを救う最初の一歩になるでしょう。


独立行政法人環境再生保全機構より平成24年度地球環境基金助成金を受けて実施した「アフリカの熱帯林の環境保全と日本をつなぐ生物多様性保全の教育・普及活動」のフォローアップの一環としてこのページを作成し、公開しています。

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