アフリカ熱帯林の現状と日本との関係

マルミミゾウ


アフリカ大陸西部から中部にかけての熱帯森地帯に、絶滅の危機に瀕するマルミミゾウが生息している。マルミミゾウはサバンナにいるアフリカゾウと比べ、胴体が小さく、またまっすぐに伸びる細い牙と、なめらかな皮膚を持つのが特徴である。これらの特性により、マルミミゾウは密林の中でもスムーズに移動することができる。樹皮や草類を常食とするが、アフリカゾウと比較すると大量のフルーツを消費することで知られている。マルミミゾウは無機塩の摂取を必要とするからであり、そのためにバイと呼ばれるミネラル豊かな熱帯林が開けた特定の場所へと集まる傾向がある。熱帯林のあちこちにあるこの空き地で、マルミミゾウたちは表層の土を掘り起こし、ミネラル分を見つけて摂取するのである。彼らは膝まずくようにしてできるだけ胴体を低くかがめ、時には水面下まで潜り込み、川床や川の流れの中からミネラルを得ている。残念なことに、密度の高い熱帯林に遮られることなくはっきりと集団のマルミミゾウを確認することができるため、結果として密猟者にとって格好の狩猟の場となってしまっているのである。 一頭のマルミミゾウが移動する地域はは722平方マイル以上にも達し、これは中部アフリカの国立公園の多くよりも広範囲に及ぶ。現在生き残っているマルミミゾウのほとんどは主にガボン共和国、コンゴ共和国に生息する。またカメルーン共和国の南東部と中央アフリカの西南部の国境近辺にも多く生存している。WCSの科学者たちはマルミミゾウに必要な生息環境、生態学、行動傾向、そしてこれらを通してこの独特な種の最適な保護方法について研究している。

Fast Fact  ̄オスのマルミミゾウは身長が8フィート(1ft=30.48cmとすると243.84cm)を越えることは稀であり、それに対してアフリカゾウはおおよそ10 ̄13フィート(304.80 ̄396.24cm) の高さである。  ̄密猟者によって道路が隠されてでもいない限り、道路は大変危険であることをマルミミゾウは認知している。そのため彼らが道路を横切る際は危険を察知し、通常の14倍の速度で動くのである。  ̄マルミミゾウは三日足らずで大きな国立公園の中を横切ることができる。

Challenges  ̄課題 マルミミゾウが、政治的な不安定な人々が貧困な地域を生息域としているため、このデリケートなゾウは人間による利己的な利用の危険に晒されている。人口が増え、産業目的の伐採や採鉱が広がるにつれて、道路や入植地が彼らゾウたちの生息する熱帯林へと侵入していく。マルミミゾウの生息域はどんどん制限され、分散されていく。自然保護区域が縮小されていくにつれ、ゾウたちの生息域が断片的な狭い地域へと制限されていき、結果として彼らの生存確率はますます低下している。かつてアフリカの自然の中でも最も人間活動から隔離されていた地域が今や、交通道路が交差し、人々の活動で溢れかえっている。コンゴ盆地を横断する新しい道路は、非常に多くの人間の定住地と化し、密猟者たちにとっても導管としての役目を果たしている。彼らは森の恩恵を求めて来る。象牙はその彼らの求めるものの一部であり、その結果中国や他国へ密輸する象牙の取引が流行している。科学者たちはこれらの道路をマルミミゾウたちの"死のハイウェイ"と呼ぶ。従ってこの違法密猟を止めることは、マルミミゾウの生存にたって非常に重要な問題である。 マルミミゾウは未だ多くの謎に包まれている。基本的な情報を除き、生息のための必須条件や分布範囲、季節ごとの移動などに関する科学的なデータはほとんど存在しない。地域計画立案者が分布や生息条件の理解を深めることは、人間とこの特殊なゾウとの間の衝突の緩和し、マルミミゾウへの決定的な影響を避けるためには不可欠である。

WCS Responds  ̄WCSの取り組み WCSグローバル・ヘルス・プランはWCSアフリカプログラムと連携してマルミミゾウの生態系と健康に関する調査をしている。ガボン、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国では、よく訓練された先住民ピグミーのトラッカーの協力の下、マルミミゾウの位置を特定し、動けなくしたうえで、首に衛星で探知するGPSを装着して長期の遠隔測定を用いて研究を続けている。マルミミゾウを動けなくしている間に、寄生虫、排泄物、血液や生体検査などの生体試料を健康アセスメントの一部として収集し、これらの調査もこの種の効果的な保全への大変重要な資料である。分布と必要な生息環境を理解することで、地域計画立案者は取り返しのつかないような影響をマルミミゾウに与えるような事態を回避し、人間とこの種の間の衝突を最小限にすることができるようになるのである。 WCSは現在マルミミゾウが生存している国と共に保護地域と国立公園を補強、拡大する事業を行なっている。国立公園やフォナル自然保護区などの保護地区では密猟の発生は著しく少なく、全体で見たマルミミゾウの数は驚くほど多い。例えばコンゴ盆地の中で最大規模の自然保護地区を残存するガボン共和国内のミンケベ国立公園とその中のバッファーゾーン(緩衝地帯)では、2004年の調査の際に22000頭のマルミミゾウが確認された。これらの残された地域に避難しているマルミミゾウを守るために、我々WCSの科学者は地球規模でのキャンペーンを行い、この地域一体に広がる密猟と象牙貿易を止める必要性を主張している。また科学者たちは伐木搬出と採鉱を行う私企業に彼らが利権を握る地域、特に保護区の近辺で行われる違法の狩猟を減少するよう勧めている。 WCSはザンガ地域のバイでの長期の研究をスポンサーしている。これはアンドレア・ツカロがおよそ20年間を過ごした場所であり、彼はその約二十年間の中で個々のマルミミゾウを識別、彼らの個々の生態を記録、違法狩猟を防止、そしてゾウたちが危険を示唆する行動をとった場合に警備に警告するという活動を行なっていた。最も新しいところでは、ツカロはコーネル大学の協力を得て、マルミミゾウの発声を記録し、彼らの使う"言語"の解読するという研究を行なっている。直接ゾウたちを観察する一方で、ビデオや音声のデータを収集している。これらの資料からツカロをはじめとする研究者たちはゾウたちの鳴き声と行動パターンを照らし合わせ、ゾウたちのコミニケーションの理解を深めるという試みを行なっているのである。

WCS事業 中央アフリカでのエコガードの設置 自然保護活動家の手となり足となるかのように、エコガード達は国立公園やその付近の土地を守るだけではなく、国際的な保護活動の試みに対する評価、査定も行なっている。 カメルーンでの野生動物の肉を鉄道で流通させない取り組み WCSは野生動物の肉を森林地帯から都会の利益の上がる市場に貿易することを阻止する活動を行なっているカメルーン政府の環境農林省とカメルーン国営鉄道と提携した。これは過去に大規模な野生動物の移動に鉄道が輸送手段として使われていたからである。 コンゴでの伐木搬出の営利権 WCSはCIBという名の伐木搬出会社と提携し、CIBが材木営利権を所有している4つの地域でのゴリラ、ゾウ、その他の絶滅の危機に瀕している動物への圧力を軽減し、野生動物の取引を制御しようと努めている。この共同プロジェクトはノアベル ̄ノドキ周辺エリアでの生態系管理事業(the Project for Ecosystem Management in the Nouabale-Ndoki Periphery Area)と名付けられ、PROGEPPと省略される。

http://www.wcs.org/saving-wildlife/elephants/african-forest-elephant.aspx

                             
独立行政法人環境再生保全機構より平成24年度地球環境基金助成金を受けて実施する「アフリカの熱帯林の環境保全と日本をつなぐ生物多様性保全の教育・普及活動」の一環として、このページを作成・公開しています。

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